偽りの大徳
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無い。もし徐晃や鳳統が捕えられていたらあなた達はどうするのかしら? まあ、今は答えなくていいわ」
我ながら意地の悪い事を言ったと思う。この交渉で向かう先は一つだというのに。あれが捕えられているとしても、彼女達に選択肢は無いのだから。
思わぬ所で交渉に使える札が増えた事を喜ぶべきか、悲しむべきか……否、結果こそ全てだろう。焦る事は無い。少しばかり予定が遅れるというだけなのだから。
再度無言になった所で劉備と諸葛亮の目の前に辿り着いた。
劉備の様相は前にも増して力強く見え、それでいて初めに出会った頃から何一つ変わらない穏やかさを纏っていた。
――ああ、間違いなくこれは私の敵対者。やっとあなたは本当の王になったのね。犠牲を伴っても、自身が悪を為そうと世に平穏を作り出さんとする本当の王に。
微笑みと共に目を合わせた。瞳に煌く輝きは意思の強さ。彼女はきっと最後まで折れる事は無く……私は全力を以って叩き潰さなければならない。
「遠い所をご足労かけさせてしまい申し訳ありません。お久しぶりです曹操さん。天幕の内にご案内します。あ、皆さんの分も娘娘のおいしいお茶をご用意してますよ」
にへらと笑い、敬語ながらやんわりと発された言葉に私の部下達の雰囲気が少しだけ緩んだ。
素でやっていてこの影響力なのだから、きっと関羽は軍を引き締めるのに苦労している事でしょうね。
「ふふ、久しいわね劉備。連合以来ね。お互い、この乱世で為さんとする事は決めているのだから当然の行動をとったまでよ。気にしないでいいわ」
愛らしく首を傾げて一寸だけ悩んだ劉備はそのまま天幕の中へと進んで行った。続いて諸葛亮も……私をチラと覗いてからそそくさと入って行った。諸葛亮の瞳にあるのは緊張と歓喜だった。
――そう、やはりあなたは……これを狙っていたのね。
私が示した言葉は諸葛亮に対してのモノが大きい。
関羽を送り込んだのは、私と劉備に直接交渉をさせる為なのだろう。私の性格を読んで、大徳の風評を最大限に利用して、公孫賛との先の交渉における相違点を秤に掛けさせて……そして私が欲しいモノを見極めて。
ありとあらゆる事柄を高い視点から見透かして、固い計算からはじき出された一手。
軍師たるモノ王の為になる行動をとるのは当然。劉備の為の思考を積み上げれば、確実にここに行き着く。最後に描いている劉備軍の取らされる結果が私と同じならば。
天幕内に入ろうかと脚を進めようとした時に……ふいと、季衣が私の前に出た。先に入ってもいいかと聞くように振り返り、目には守るという意思の光を携えて。
私は優しく、彼女の頭を撫でた。季衣の行動は親衛隊として褒められこそすれ、責められるモノではない為に。
嬉しそうに肩を竦めてから進み始めた彼女の二歩後を
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