偽りの大徳
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夜天に煌く星々と薄く靄のように少しだけ広がる雲。今宵は新月。まるで英雄達の命をこれでもかと輝かせているようにも見えた。
星が散りばめられた美しい空に想いを一つ零す。
どうか、最後に一つでも多くを手に入れられるように、と。
†
関羽から天幕の準備が整ったと報告を受けて、先に通達しておいた者達と共に劉備軍の陣へと入って行った。
そんな道すがら、私の前に二人の人物が見えた。
赤い髪を後ろで括り、じっときつい目で見やる白馬の王と、白き衣に蒼い髪の昇龍。そこに関靖の姿が無いことから、やはり情報通りに忠義に殉じたのだと理解出来た。
二人の瞳には少しばかりの敵意と後悔があった。私が密盟を受けていれば、彼女達は今も愛する幽州の地にて楽しく暮らせていたのだから当然。
私は目を向ける事もせず、静かに横を通り過ぎ、冷めた瞳が不思議と心地よく感じた。
彼女達が何も言わなかった事に称賛が湧く。胸に湧く怨嗟を向ける程度のモノでないのならば、やはり彼女達は誇り高き英雄である。
稟に対しても、趙雲は友が敵対勢力にいる事を仕方なしと呑んでいるのだ。これから先、戦う覚悟もあるのだろう。
誰も何も話さず歩くこと幾分、漸く劉備が用意した天幕が見えてきて、少しの驚愕があった。
遠目から見える篝火に照らされた二つの人影。近付くにつれてはっきりとした人物達は……劉備と諸葛亮だけ。張飛は交渉の場に使えない為に、軍の掌握に向かっていると予測出来た。
王自らが出迎えるなど有り得ない。それでも、それを為す姿はまさしく徳の人。だからこそ民に好かれ、臣下に慕われ、人の和を繋ぐ事が出来るのだろう。
しかし同時に落胆が湧いた。
徐晃が此処にいない。飄々と、不敵に、私を打倒しようと画策していた愛しい敵が居ない。さらには、徐晃の影響を一番に受けているであろう鳳統もいない。
「関羽、徐晃と鳳統はどうしたのかしら?」
徐晃がここまで大きな交渉の場に顔を出さないなどあるはずが無い。私には顔が割れているのだから、意図的に軍師である鳳統を外す事も諸葛亮ならばしないだろう。それなら得られる答えは一つ。
「二人は遅れてこの場に来ます。袁家の暗殺によってか、袁紹軍侵攻の伝令が遅れたのです。今は本城から此処へ徐晃隊と共に向かっていると思われるのですが……」
関羽の表情は悲哀と疑惑。その意味するところは――きっとそういう事。
「……到着予定時刻よりも遅れているのね? 不測の事態……袁紹軍との戦闘があったと考えていいわ。なら霞、我が軍の半数は戦の準備を整えて待機させよ。付近に物見の斥候を広く放ちなさい」
御意の返答と共に霞が全速力で駆けて行く。関羽は目を見開き、言葉を発せずにいた。
「ふふ、用意周到に越した事は
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