偽りの大徳
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「……っ……分かりました。私達はこの地を……今から捨てます。曹操さんの提案を呑みます」
どっと安堵が胸の内に沸き立った。これで全てが上手く行く。誰も失わずに劉備軍のままで乱世を抜ける事が出来るから。
「ふふ、いい子ね。なら交渉は終わりとするけれど……私は此処で徐晃達の合流を待つわ。稟、あなたは私の代わりに霞と凪、沙和の部隊を率いて袁家の対応に向かいなさい」
一瞬思考が真っ白になった。曹操さんが此処に残るなんて……せっかく握り潰したのに、万に一つの可能性が現れてしまった。
思考がまとまらないままでいると、愛紗さんは次の行軍を開始させる為、天幕の外に控えていた兵に指示を出し始める。
「諸葛亮、ちょっと来なさい」
にやりと意地の悪い笑みを浮かべた曹操さんは私に手招きをした。
人形のように、私の脚は彼女に向かう。脳髄が嫌というほど警鐘を鳴らしていた。この人の言葉を聞いたらダメだ、と。
「あなたの策、見事だったわ。私の全てを読み切った事は褒めてあげる。見誤ったのは一つだけ。あなたは徐晃の事を何一つ分かっていない」
小さく耳打ちされた言葉に、私の頭は鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
――私があの人の事を理解していない? そんなわけない。同じ軍でも無いあなたに何が分かる。覇の思想を持っているとしても、彼はあなたよりも桃香様を選んでいる。だから……勝ったのは私なんだ。彼が選んでくれるのは私達なんだ!
身体を離して、キッと曹操さんを睨みつけると……楽しそうに、獰猛な笑みを浮かべていた。
「あなたの負けよ。首を上げるだけの伏竜。見上げるだけじゃ空は手に入らない。天駆ける黒麒麟は……必ず私を選ぶ」
小さく、私だけに聞こえる大きさで紡がれた一言。やはり、最初から曹操さんの狙いは秋斗さんだけ。彼を手に入れる事こそ、今回の彼女の目的だったんだ。
苛立ちが込み上げて歯を噛みしめた。何故、そこまで自信満々でいられるのか。
正対している事が出来ず、私は踵を返して桃香様の隣に並ぶ。心を落ち着けるようにゆっくりと息をついて、お茶を手に取って啜った。
内で喚く黒い獣がうるさかった。勝利の雄叫びを上げながら、覇王に対して怒りの声を向けていた。
どうして全て上手くいったのに、こんなに不安なんだろう。
どうして私は……彼の事を心の底から信じられないんだろう。
彼は私達をいつでも信じてくれているというのに。
静寂が包み込むその場は幾刻も続いた。たまにお茶を啜る音が聴こえるとしても、陰鬱な空気はずっと払拭されなかった。
長い時間を待って漸く、私が待っていた情報が入った。
「りゅ、劉備様! 徐晃様と鳳統様が到着なされました!」
その報告に、安堵と不安が綯い交ぜになった心が
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