第三章、その4の1:策謀の実行
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「・・・・・・キーラ。お前の気持ちはよく伝わったよ。とても嬉しい。親として此処まで思い遣りを受けるとはね・・・お前は本当に、良い娘に育ってくれたよ」
「そうね。とても思いが伝わってきたわ。その情熱、きっとお父様譲りね」
「ならその優しさはミント譲りだな」
「まぁ・・・ふふ」
偽りの笑みである。正真正銘の笑みだ。口角と頬が優しくつり上がり、目は細くなって和んだ様子を見せている。それに言葉もまた棘はおろか、冷たさの感じぬ順風のような心地良さを感じさせた。これこそがキーラが望む、否、家族全員が望んでいるであろう団欒の情景であった。
これを何時までも満喫したいのが本音であるが、キーラはそれを振り切るように答えを尋ねた。
「あ、あの、お父様・・・それで、祭りはどうなんでしょうか?」
両親は互いに笑みを隠して視線を合わせてから、気まずげにキーラへと戻す。それだけで答えは分かってしまった。大きな落胆を覚える彼女に面と向かって父は言う。
「行かせてやりたいよ。個人的にはな」
「・・・・・・駄目、でしょうか」
「・・・少なくとも、今は駄目だ。すまない」
「・・・いいえ。私にも家の事情が分かりますから・・・。我侭を言って、申し訳ありませんでした」
「・・・すまない」
座上で頭を垂れる父に向かってキーラは頭を振った。そして重くなったままの手を動かし、マトンのローストを切り分ける作業へと戻っていった。皆が皆浮かぬ顔でそれぞれの食卓を見詰め、口を閉ざしたまま盛られたものを頬張り、咀嚼して、嚥下する。
何の妨げもなく続けられる食事は、舌に感じる筈の温かみと旨みが意識できなくなるほどの、無色の空気を醸し出していた。銀皿を擦るフォークとナイフの音色が静かに響き渡り、三者の懊悩に拍車を掛けていた。
肌が焼け付くような強い日差しが燦燦と降り頻る。直上へと差し掛かった太陽は今この瞬間にこそ、その光の眩さを最大限に発揮しているのだ。お陰で空には雲が綿一つたりとも浮かばぬ事態となっている。正直、日光の下では暑過ぎて適わない。
だがそれでも動くのが人間だ。とりわけ、気紛れより発した一大規模の祭事となれば、動かぬ理由などない。てんでやんやとあちらこちらの通りに張り詰めた路地に殺到する人々の姿は、まるで砂糖に群がる蟻のようであった。貴賎の違いも気にせず思い思いに道を歩き、背の高い建物が作り出す陰に身を置いていた。
そんな中に慧卓もまた混ざっている。但し彼は歩くような真似はせず、日陰でのんびりと本を読誦していた。今日も紫紺色の宝玉をつけたアミュレットを頸に掛けており、警備兵の黒い外套を羽織っている。正直これが暑すぎるのだが、任務を続ける以上脱げないというのが悲しき所であった。
「『魔法には様々な種類があり、そ
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