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王道を走れば:幻想にて
第三章、その4の1:策謀の実行
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ものをそのまま王都でやりたいのだろうと、ブルーム卿が申されていたな。それがどうかしたか?」

 ニムル国王による祭事は此処、王都の至る所で話題の肴となっていた。王都中を巻き込む一大規模の祝祭であると同時に、異例な事であるが、内縁部と外延部を隔絶する全ての門を開放するらしい。貴賎貧富の差も関係なく愉しめという心意気が現れたものであるが、而して臣民は素直にそれを喜べない。宦官の顔がどうにもちらつくためだ。また何か裏で企みを練り上げているに違いないと人々は噂する。

「私も参加してみても、良いでしょうか?」
「何故かしら、キーラ?今日は魔術の学習をする予定だったのではーーー」
「ミント。・・・キーラ、続けてくれ」

 だがキーラにとっては重要事はそれではない。重要なのは、その祭りがつい最近、ある者が地方で行った祭事を土台として展開されるという事であった。その者こそ、キーラにとっては重要事なのだ。

「・・・私、あの晩餐会の夜、ケイタク様と会ったのです・・・あの異界の若人様と。とても明敏そうで、素直な方だと思いました。自分の思った事をそのまま口に出せる方だなぁと。・・・正直ちょっと嫉妬しました。ほら、私なんかよりよっぽど自由で、そして周りの人から少なからず大事にされているんですから・・・王女様も、きっとそう思っています。仲良さそうでしたから、あの二人」

 脳裏に浮かぶ彼の笑顔は脚色も含まれるが、確かに想起されるものであった。澱みの無い溌剌とした笑み。闇夜に溶け込むような黒髪と綺麗な黒眼。そしてキーラが惹かれたのは物怖じのしない彼の勇気であった。貴族の娘である自分に対し、彼はおくびも見せずに手を差し伸べた。美麗なる舞踊への誘いの一手を。

「そして月明かりの下、花々が夜の香りを散らす庭園で、私はケイタク様と一緒に踊ったのです。たどたどしくも優しく手を合わせて下さって、自分勝手ですけどほんの少し、救われた感じたしたんです。この人と一緒に居れば、少しは心の棘が消えるかなぁって。自分から茨の道を進まなくても、この人が歩む道を辿れば、もしかしたら希望を見付けられるかなって・・・」
「・・・だから、この祭りか」
「はい、お父様。あの人が開かれたという祭りに参加すれば、きっと私、自分に出来る何かを見つけられそうな気がするんです。貴族ブランチャードの娘としてではなく、お父様とお母様の娘として!あの人の思いをもう少し理解できれば、きっとそれは素晴らしい事に繋がると思うんです!」

 正面より父君の瞳を見詰めてキーラは訴えかける。翠の瞳には燃えるような情熱が浮かんでいる。宛らそれは空へと登る太陽のようでもあり、日を浴びて輝く一輪の華のようでもあった。親心としては、後者であればこれに勝る嬉しさは無い。
 ミラーは感慨に耽るように笑みを浮かべた。

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