第5騎 トルティヤ平原迎撃戦(その2)
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部屋を用意するよう言われたトレェルタは、念の為なのか、立ち止まり、こちらを見ていた。
「トレェルタ、頼む。」
私がそう言うと、彼は小さく頷いてから、退出していった。それと、ヒュセルの文句で何とも言えぬ雰囲気に、訝しげな表情をしていた総督に話し掛ける。
「総督、少しばかりお待ちを。今、用意させていますので。」
「あ、いや・・・」
彼は、ちらりとヒュセルの方を見て、そんな言葉を口にした。まぁ、彼の懸念の通り、ヒュセルは大きな声を張り上げる。
「エル!私の話を聞いているのか!?」
顔を林檎のように、真っ赤にして。
「話を聞かなかったのは、兄上、あなたでしょう?」
私は、肘掛けに肘を置き、頬杖を立てる。
「なっ!?どういう事だ!?」
「・・・私が、軍議で言った事を覚えておいでか?」
ヒュセルの目から視線を離すことなく、そう問い掛けた。
「そ、それは、只の結果論であろう!?な、何を得意気に言っている!」
ゆっくりと、椅子から立ち上がり、彼の傍へと歩いていく。
「・・それと同じ事を、死んだ将兵達に言えますか?」
彼は、その言葉に笑いを堪えるような仕草を見せた。私の視線から目を反らし、溜め息を付きながら答える。
「エル、よく聞け。我等は王族だ。国を統治する最も偉い人間なのだ。将兵達は、私達の為に死んで当たり前だろう。むしろ、光栄だと思うべきなのだ。」
彼は、何の悪びれもなく、いや、まるでそれが“正義”のように語った。それを聞いた時、私はどうしようもなく“憤り”を感じた。
ー刹那、私は、腰に携える長剣を引き抜き、白刃を煌めかせて、ヒュセルの喉元に突き付けた。その刃先は、あと数ルミフェルグで、その肌に食い込ませる事が出来る。彼の首元で光る長剣を見ながら、白く輝く刃に、どす黒い愚劣な人間の血が滴る所を、想像した。
「ひ、ひぃ!・・・な、何をする!あ、兄にこんな事をして許されると思っているのか!?」
ヒュセルは、小さく悲鳴を上げて、そう抗議する。
「・・・・」
私は何も言わない。ただ、この愚兄を睨み続けた。すぐ近くにいるシェルコット総督は、何か“興味深げ”に此方を見ている。
「王族あってこその、あいつらだろう!?何を臣下に媚ている?!」
その言葉に、長剣を持つ手に力が入る。あと一押し、それだけで、この愚兄の喉元を掻き斬る事が出来る。そう思った時である。勢いよく、この大広間の扉が開かれ、レティシア・ヴェルムが駆け込んできた。
「エル様、ご報告が。」
彼は、今の状況に少しばかり驚きつつも、そう言った。私は、長剣を引き、鞘に納める。その時点で少し違和感を感じた。いつも冷静沈着なレティシアが、その目に少しばかりの動揺の色を見せているのだ。それは、私がヒュセルに剣を突きつけていた事
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