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王道を走れば:幻想にて
第三章、その3の2:前に一歩 ※エロ注意
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背中で受け取った彼女は益々に意気果敢となった様子であり、闘志に滾る心地良さを抱いていく。
 今まで見た事無いくらいにやる気となっているようだ。慧卓はにやにやとしたままのトニアに尋ねた。

「一体何吹き込んだんです?」
「乙女心の背中を押す、魔法の一言です。・・・御賢察を窺っても宜しいですかな?」

 慧卓は片眉を飄々と上げてみせて、両手でメガホンを作ってアリッサに大声を掛けた。

「アリッサさん!!!!!」

 アリッサは頸のみで振り向いて慧卓を見詰める。闘志に漲る深緑の瞳の中に、戦と血とは無縁の、炎のような想いが篭められているのを感じた。慧卓は晴れやかな笑みを浮かべて精一杯の大声を出す。 

「頑張って下さい!!!応援します!!!」
「ああっ!!私の勝利を祈ってくれ!!!」

 爽快感を絵に描いたような笑みを返し、アリッサは眼前の猛勇と再び眼の火花を散らし始める。自分が思っていた以上の声を張り上げた慧卓は頬を赤らめており、トニアがうんうんと満足げに首肯しながら声を掛けてきた。

「何をも勝る最高の返事ですよ、ケイタク殿」
「いい性格してるよ、本当にさ」
「おや、どちらの事ですかな?」
「どっちもだよ」

 慧卓はそう言うなり口を閉ざし、広場の中央に開けられた小さき戦場を注視し始めた。最早戦の境地に心を張り詰める二人においては語りは無用。唯一声と共に地を駆け出し、全力の仕合に臨むのみであった。煙を巻く一風が合図となる。
 彼らを囲む騎士等もまた自分達の訓練とは打って変わった、心身類稀なまでに鍛えられた騎士同士の極地と極地の睨み合い言葉を失くし、身動ぎ一つせず見守っている。悠然と佇む両者は片足を俄かに後ろに下げ、片手を剣にかけたまま動かない。10メートル近くの間合いだが、一瞬で詰め寄れる距離であろう。静寂の中にアリッサは、焦燥に駆られず、ましてや無謀に囚われず、秋風のような面持ちでその時を待ち続ける。
 風が吹いた。

「いざ、尋常にして!」
「勝負っ!!!」

 爆発する歓声に囲まれながら両者は疾駆する。一秒も数えぬ内に剣が届く距離となった。アリッサは抜き打ちに鞘から剣を払い、熊美との下段斬りと噛み合う。ぎぃんっと強烈な音が響き渡り、剣を握る腕に震動が波となって伝わってきた。だが耐えられないものではない。

(この勝負っ、勝つぞ!!!)

 アリッサは素早く剣を返して熊美に詰め寄る。対する熊美も戦士に相応しき豪快で、そして凄惨な笑みを零しながらそれを受けていった。
 



 
 建物の中、三階部分をかつかつと靴音が鳴っている。一つのリズムにもう一方がそろそろと重なるようだ。先を行くは三十後半近くの男であり、それに続くは顔を妙に汗ばませたミントである。外套を羽織りながら腰元に来る倦
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