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王道を走れば:幻想にて
第三章、その3の1:遠因の発生
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相さを増すかのように、ふしだらな酒の香りが立ち込めていた。その発生源は、己の寝室で酒瓶の蓋を幾つも開けているミラー=ブランチャード男爵、その人であった。顔はすっかりと赤く出来上がっており、吐き出す息には隠しようのない酒臭さと、被虐的な億劫さが混ざり合っていた。
 とんとんと、不意に扉が叩かれる。びくりと目を向かわせたミラーは、その眼に伴侶であるミントの姿を捉えた。

「っ、み、ミント・・・」
「ミラー様、お酒は控えるよう再三申し上げておりますのに。もう若いとはいえぬ身体なのですから無理は御禁物です。御身体に障りますよ」
「これはこれは・・・中々に妙な事を言う。私が酒を愉しむのは詩を吟じ、美を詠うのと同じ心さ。疚しい理由があろうか?」
「・・・私の旦那様は確かお酒に弱かった、と記憶しておりますが」

 静かに言う彼女は、床に、そして駕籠の中に転がる幾つもの酒瓶を冷ややかに見下ろす。『暁の蜂蜜酒』。宮廷内でも人気を誇る、至極の一品である。値段も相応だ。

「・・・高級なお酒をお好みなのは昔を変わりませんわね・・・懐かしいですわ・・・。最後にこれに飲んだのは三年前ほどでした」
「そうだったな。お前が思いの外酒癖が悪くて、夜遅くまで付き合わされたよ。酒の席の同伴から寝台の同伴まで。正直あの時は、ハハ、枯れるかと思った」
「誤魔化そうとしては駄目ですよ、赤顔の御主人様。今の私共の家にこんな高いお酒を買う余裕などある筈が無い。なのに貴方はこれを飲んでいる。これは一体どういう事でしょうか?」

 ミラーは何も言わずに杯を呷る。濃厚な葡萄酒を髣髴とさせる一方で柑橘類のような甘みを残す味わいであり、度数の高さとは裏腹に喉越しが非常に良い。酒類としての長所を充分に発揮した一品である。だからこそ値段が吊り上るのだ。
 ミントは手を前に組んで、冷ややかな視線を夫に注いだ。彼が何時この酒を手に入れたのか、それについての心当たりが彼女にはあった。

「お酒を手に入れたのは、キーラにドレスを渡した後ですね?」
「・・・」
「沈黙は何よりも雄弁に語りますわよ、貴方。・・・あの時、外で馬車が二台留まっていましたけどーーー」
「何でその事を知っている!?」

 言葉を遮るように騒々しくミラーが立ち上がる。沈黙を保っていた瞳は動揺している。

「御様子を、カーテンの隙間から見ておりましたわ。其処で誰がどんな事をしていたか、そして荷台に何が積まれていたかも、はっきりと見ております」
「・・・っ・・・」

 身体に走っていた心地良い酔いが冷や汗が走るように醒めるのをミラーは感じていた。ゆっくりと椅子に腰掛け、杯を棚の上に置く。

「ミラー様」
「皆まで言うなっ!・・・全部分かっているさ」
「いいえ、分かっていません!!」

 ミントが
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