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王道を走れば:幻想にて
第三章、その3の1:遠因の発生
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拗な悪意と陰険さを現すかのような神秘の光に、連れの二人は瞠目して眺める。

「『起きろ、人間』」

 ビーラの訛りの無い威圧的な声色に憲兵は目をばっと見開いて、その眼光を支配する貪欲な赤黒い光を見せ付ける。

「『貴様は誰の前に立っている』」
「ヒューリヒ・・・魔道の中の魔道」
「『貴様の意識は誰のものだ』」
「ヒューリヒ・・・魔人の中の魔人」

 ビーラの言葉に、憲兵は夢心地で億劫さを隠さぬ声色で応える。見開いた瞳は光を零している一方で虚ろであり、口元も死人のように力無く開け放たれていた。ビーラは厳かに続ける。

「『貴様はこれから何事も無く兵舎へと戻り、疑われる事の無いよう任務を終える。そして我が呼び出す時には、何事にも優先して、我も元へと駆けつけよ。我の有能なる下僕としてその才を示せ』」
「委細を・・・把握した」

 その言葉を聴きビーラは掌をそっと離す。始めの唐突さと同じように、剣呑な赤黒い光が瞬く間に消えていく。憲兵の瞳もまた閉じられ、その代わりに落ち着いた寝息が聞こえ始めた。
 ビーラは息を一つ吐いて連れを見やる。

「これで大丈夫ダ。其の時が来たら俺ガこいつを呼ブ。良いナ?」
「・・・は、初めて見る魔術だ・・・。ど、如何いう代物なのかね?さぞかし気品と高貴さが溢れる方が生み出した魔法なのだろう!?少しばかり教えてくれないか?」
「止めろよ、棟梁さん。俺達、結構騒ぎ過ぎたと思うぜ、住人の奴等が気付き始めちまう。此処でお喋りする時間はもう無い。時間の無駄だ」
「無駄っ!?き、君は、崇高なる知識欲の充足を、唯の時間の無駄とーーー」
「んじゃ俺は今日の分が終わったし、娼館にでも出掛けて来るわ。種は溜め込むものじゃないしよ」
「分かっタ。俺も俺デ用がある場所がアル。其処で最後の準備ヲ整えよウ」
「うっし。んじゃまた塒でな」
「聞いているのかね、君達は!?というか、この死体はどうすればよいのだっ!?」
「死体など珍しくも無い。憲兵であってもだ。そのための貧民窟、だろっ?」

 いうなりアダンは機敏に駆け出し、薄暗闇に行方を眩ませる。言葉通りに娼婦と遊戯に戯れるのであろう。ビーラもまた欠伸をかみ殺しながら倉庫内へと消え去り、中の地下通路から塒である宿屋へと向かった。残されたチェスターも後を追うように倉庫の中へ消えていく。
 惨憺たる血潮の香りが漂う中、術を施された憲兵は健やかに、まるで赤子の如く眠りに就いていた。





「・・・げほっ、げほっ・・・んっく、ごくっ」

 内壁に覆われた王都の一角。周辺に佇む清廉で高貴な館の陰にひっそりと佇むのは、他のそれと比べて一段貧相の階段を降りている、ブランチャード男爵の館である。常日頃より階位に不相応な貧しさ故の静けさが漂うこの家には、更に貧
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