第三章、その3の1:遠因の発生
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刻まれている筈である。而して其処に刻まれていたのは、燦と花開く赤い百合の文様だ。
チェスター達の表情が険しくなる。その花は美しさ以上に、とても強い意味が篭っているのだ。
「・・・見覚えガあるだろう?とてもよくナ」
「俺もだ。何度か見た事あるぜ、特にこいつはな。こいつがある家は本当に警備が厳重だったぜ」
「『赤百合の紋章』。神言教ノシンボルだ」
神言教。建国の祖と賛美されるグスタフ卿の加護の下繁栄した一大宗教。帝国からの独立において革新派と保守派に分断され、革新派の協力の下に王国は成長し、そして敗戦した。今では過去の悪名を掘り返すが如く腐敗の一途を辿る存在であり、此処に佇む三名にとってはそれぞれ因縁浅はかならぬ相手であった。
「どうするよ。こいつが来てるって事はよ、チェスターさん、あんたもう教会に目を付けられているって事だぜ」
「そそ、そ、そんなじ、事態が起きている筈な、ないだろう!!全ては計画通りに進んでいるんだ!不測の事態など、微塵も起きる訳が無い!!」
「チェスターよ、仮にモお前は我等の棟梁ダ。ならば今ノ情況を冷静に見詰める責務ガあるのではないカ?」
「そうだぜ。俺達の行動は既に露見している。だったらそれを見越した上で行動するべきだ、あんたが望むのならな。・・・んでどうするよ、こいつ。このまま野放しですか、棟梁さん」
チェスターはその上品に整った顔を一瞬歪める。屈辱と苛立ちに歪んだ、実に醜悪な目つきを浮かべたのだ。彼は荒立つ心を落ち着けるように、ビーラに問う。
「・・・私が答えを出す前に聞かねばならぬ事があるぞ、ビーラ殿。生かしたからには何かしら考えがあるのだろう?」
「無ければ殺ス。まぁ見ていロ。アダン、こいつの鎧を脱がすカラ、少し手伝ってクレ」
「あいよ」
二人は死体の傍らで生き残った憲兵の鎧を脱がしに掛かった。がしゃがしゃと歪な音を立てながらも鎧が手早く脱がされ、憲兵の隆々とした肉体が下着一枚を残して顕となった。
「んで、どうするんだい?」
「術を施ス。我等の役に立つようニ」
「術だと?な、何の術かね?『記憶消去』かな?或いは『疑心の拡充』かい?」
「そんな高度二陰険な術、期待してもらってハ困ル。もっと単純デ、役に立つモノダ」
「あ、そうかい」
拗ねたような口調のチェスターに構う事無く、ビーラは懐から一本の羽ペンを取り出した。黒インクを付けたりもせずビーラはその筆先を憲兵の身体に手馴れた手付きで走らせた。円を描き、紋様を描き、そして流れるような文字を走らせる。それが終わるとビーラはペンを仕舞い、己の両手を掌で合わせて指で絡めた。途端に彼の手の内、そして憲兵に走った筆跡から赤黒い光が放たれて、彼の翠色の鱗肌、そして爬虫類のような鋭い黄色の瞳孔をを顕にした。まるで人間の執
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