第三章、その3の1:遠因の発生
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けられた。憲兵の一人が抜き打ちをしよう剣を滑らせて、その顎を強く横合いから殴られた。もう一人の憲兵は声が掛かった直後には既に抜刀していた。そして仲間を襲った不埒な輩に斬り掛かろうとした瞬間、頭上に気配を感じて、そして己の頭頂部から熱く鋭いものが侵入してくるのを感じたまま意識を閉ざした。
憲兵の身体が倒れる。一人は気絶し、もう一人は頭から刃を埋め込まれている。脳髄を二つに裁断されて中脳を抉られている、即死だ。その裁きを下したのは二人の男。一人は野生的な蛮人服を纏う男、もう一人は全身をロープで隠した鱗面の男だ。
「片付いたカ?」
「当たり前だ、相棒。お前さんも片付いたカーイ?」
「・・・問題ナイ」
茶化す口調に応える度量を、鱗男は持ち合わせていないようだ。
ぱちぱちと、拍子抜けのする拍手の音が響いた。倉庫の影から先の青年の姿が現れる。憲兵達の勘は正しかったようだ。青年は蛮人風の男を見て賞賛の声を掛けた。
「諸君っ、見事な手並みであった。アダン殿、流石は腕利きの盗賊だ。元教会騎士であった私でさえ気配を掴めなかったぞ。倉庫の屋上から飛び掛って刃を埋め込むとは、見事な曲芸だな!」
「稼業だったんでね。この辺習熟できなきゃ、お終いさ。盗賊なんかしてないで、今頃墓地で女の司祭に種を蒔いているよ」
「そ、その不道徳な冗談は止め給え、非理性的な!・・・そして君にも勿論感謝しているよ、ビーラ殿」
「・・・ふん、当然の事ヲしたまでダ」
誇る事無く、ビーラと呼ばれた鱗の男は素っ気の無い返事をした。それに青年、チェスターは肩を竦めて応える。
彼等にとって憲兵の殺害というのは実に容易い事であった。憲兵を巧みに奥地へと誘い込んだ後に殲滅する。憲兵が技を鍛えていようと、接敵のその瞬間まで気配を消せる腕利きの男二人にとっては実に御しやすい相手である。仮に逃したとて、教会出身の騎士の一撃を回避する事も適わないだろう。それを成し得る力量と技量が彼等には存在していた。
チェスターは不思議でならぬといった表情を浮かべて一人昏倒したままの憲兵を見下ろし、ビーラに尋ねた。
「しかしだね、なんで彼を生かしたままなのかな?こいつは所詮は憲兵。斬り殺しても、数日後には貧民窟から直ぐに補充される程度の輩だぞ?」
「すぐにっておい・・・抜刀は結構早かったからそれなりの腕なのは違い無かったぜ?で、どういう意図があったんだい、ビーラよ?」
「・・・こいつ等ハ憲兵ではない」
「・・・如何いう事だね」
「普通の憲兵ナラバ重装の鎧姿で武装してイル。鋼鉄製デ、グリーヴの踵の部分にハ樫の文様が刻まれてイルものダ。だがこいつヲ見ろ」
頭から鉄を生やして鮮血を零している憲兵の踵部分を指す。ビーラの言葉の通りならば樫の花特有の、垂下するわたあめのような文様が
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