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王道を走れば:幻想にて
第三章、その3の1:遠因の発生
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、商人が指差すものを見た。白くさらさらとした小山を築いた粉末。一つ摘むと、見た目にあるまじきざらついた感触が伝わってきた。まるで角ばったものが肌に刺さるかのような感触。青年は知っている、それは王国に広く流通する麻薬、マウンテンシュガーであると。そして青年は知っている、この商人が渡したいのはこんなちんけなものではないと。

「ふむ、マウンテンシュガーか?生憎だが、私はその種の快楽に悦を覚えんのだ。浮世を忘れて脳を彼方へと飛ばすような悦にはね。心遣いだけは受け取っておくよ」
「そうかい、そりゃ残念」
「だがもし貴殿が、懐の内に『白金の鍵』を持っているのであれば、私はそれを戴きたいな」
「・・・果実ね?さぞかし素晴らしい思いが込められているんだろうな?」
「そうだとも。先人達の思いもまた、ね。『白の塔よ、震え慄け。紅の西日はお前を睨み、お前の身体に弔炎を燈すだろう』」

 実に剣呑な文句を青年は嬉々として告げた。途端、商人の作り笑みが消えてさっと懐から一通の封筒を取り出した。それを青年に渡しながら商人は不安げに言う。

「尾行は?」
「うん、二人居るよ。・・・ああ、そんな心配げな顔をするな。あいつらの後ろに私の仲間が居る。ちゃんと始末するさ」
「そう願っている。結構ヤバイもんだって俺でも分かるぜ、こいつは。ほら、受け取ってさっさと消えてくれ」

 青年は商人を鼻で笑いながら通りを歩き始め、ものの十歩も歩かぬうちにさっと路地裏へと消えた。
 数秒後、二人の男が商人の屋台の前へと現れる。全身を鋼鉄の無機質な色をした鎧で覆った、悪名高き王国憲兵だ。

「・・・あの男は何処に行った?」
「そ、そこの通りでさ・・・」
「後で逮捕しに来るぞ。其処で待っていろ、下種め」

 侮蔑を隠さずに言うなり男達は駆け出し、青年が消えた路地裏へと入り込む。既に片手は腰の剣に伸ばされており、何時でも抜き打ちが出来る状態だ。細道が多い路地裏でも隙無く抜き打ちを出来る自信が男達にはあったのだ。 
 しかしそれは獲物を見つけての話。入り組んだ路地裏を進む二人は何時の間にか王都の穢れである、貧民窟へと足を踏み入れていたのだ。貧家と倉庫がまるで身を寄せ合って作られたこの地域は憲兵はおろか王都の臣民であっても中々に理解し難い造りをしている。よって二人が獲物を見逃すのも自然な話といえた。
 昼過ぎに関わらず、常に薄暗い森林のような闇を持つこの地域。一角に佇む大き目の倉庫の前で二人は足を止めた。鎧がやけに重く感じるのは何も疲労だけの話ではなかった。

「あ、あの男、何処に消えたっ!気配は此方に向かっていた筈なのにっ!!」
「ちっ、自分の街で獲物を見失うとは・・・!」
「まるデなっていない。猟師失格ダナ」

 鈍りのある声が背後から、濃密な殺意と共に掛
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