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王道を走れば:幻想にて
第三章、その3の1:遠因の発生
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を出す前に剣の勢いが削がれた。そのまま彼女は詰め寄り、左手をぐんと伸ばした。
 二人の動きが静止する。アリッサが己の体躯を自制させ、尚且つ慧卓の行動を止めたのだ。彼女の左手は慧卓の頸元を掴んでいる。親指は喉仏を、あとの指は首筋を。

「・・・凄い、機敏ですね」
「騎士であるなら皆これくらいは当然出来るさ」
「それで、今の攻めは何を目的として?」
「単純だよ。相手の剣が自分に振りかかる前に、相手の頸を潰す。膂力があるなら素手でもいいが、無ければ短剣を引き抜いて裂いてもいい。それが私がケイタク殿に伝授する必殺技だ」
「・・・えっ、地味すぎやしません?」
「戦いに地味も派手もあるか。どうせ血が出る瞬間にどよめくんだから」
「いやでもさぁ・・・」
「必殺技だぞ。決まったら格好いいぞ。私なら惚れるぞ」
「・・・こ、心で理解しました。今日中で完璧に仕上げてみせましょう、アリッサさん。惚れさせて魅せます」
「その言葉を待っていた」

 にやりと笑みを浮かべるアリッサ。その歪み、体育祭に人一倍張り切る鬼の体育教師を彷彿させるものがあり、慧卓は引き攣った笑みを返した。
 その後、昼食を挟んで鍛錬を励む二人。筋肉痛と強烈な疲労に苛みながら、慧卓はどうにかこの技を習得する事に成功し、アリッサの歓心と喜色に富んだ可愛らしい笑みを買うのにも成功した。万々歳の結果である。それが実戦に使うにはお世辞程度の質の悪い技であり、その後数日筋肉痛に悩まされる事を除けば。




 慧卓が鍛錬に励む刻と同じくして、一人の若い青年が緩いロープ姿で王都の通りを、宮殿の方角に向かって悠々と歩いていた。内壁と外壁に挟まれたこの場所では貧困と切っても離せぬ関係であり、そこかしこにおんぼろの木の家や、貧相な見た目の屋台が並んでいた。路地裏へ迷えば一巻の終わりであり、今日も今日とてある場所では血潮の香りが、ある場所では憲兵に嬲られる浮浪者の肉の音が響いていた。国王の膝元ではこのような事態が頻発し、未だ改善の手が加えられていない。国王がやる気になれば話は別であろうが、それを許すほど帝国が派遣した傀儡達は優しさを持ち合わせていない。それが青年が今の王国を嫌う理由でもあった。
 ふと、青年がぴくりと眉を跳ね上げる。入り交う民衆に混じって剣呑な気配が漂ったのだ。

(・・・ふん。二人か)

 品の良い口元に嘲りを浮かべながら、青年は黙々と歩く。頸元に掛かっていた趣味の悪い髑髏の飾りがきらりと光った。それに寄せられてか、無精髭を顔に沢山生やした商人が屋台から声を描けた。

「おい兄ちゃん、そっち行っても肩が苦しくなるだけだぜ。なんせそっちは貴族のモンしか住めない格式ばった区画なんだからよ。んな思いするよか、どうだい、こいつで一服してみないか?」

 青年は近付いて
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