暁 〜小説投稿サイト〜
王道を走れば:幻想にて
第三章、その3の1:遠因の発生
[4/12]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
く十年は掛かるだろうな。何せ体力も無く、膂力も無い、おまけに武術の経験無いと来れば、な」
「うぐっ・・・」

 苛烈でありながら現実的な指摘に慧卓は反論の口を閉ざしてしまう。確かにその通りである。今の慧卓には膂力も無く技量も無い。この世界では一介の農夫の方が力仕事に卓越している。
 だがもしも、もしも自分が神官のように魔法を使える身となれば。熊美と山賊団の棟梁の一騎打ちの前に神官が唱えていた物を思い起こす慧卓。あのような呪術的な存在が認められるなら、きっと其処には神聖な意味を持つ誓約の魔法だけではなく、肉を焦がす攻撃の魔法も存在する筈だ。
 その考えを見透かしてか、アリッサは頸を振って言う。
 
「己が無双を誇る場面を思っているな?だが私が知る限りそれが出来る唯一の可能性は魔道のみであり、おまけにその術式は魔道学院や教会が秘匿して独占している。我等騎士であってもそれを学ぶ事は適わなず、伝手も無い。諦めるべきだ」
「んじゃぁどうしろと?やられる前にやるのが戦いの基本ですよね?」
「その通り。ようは相手が実力を出す前にケリをつければ無双を誇れる、こういう事だ。だからケイタク殿が取る手段はこれになる」

 言うなりアリッサは慧卓から距離を取りながら抜刀する。

「ケイタク殿。私が貴方に向かって走るから、それ目掛けて全力で剣を振り下ろしてくれ。肉を断ち切る勢いでな」
「ええっ!?でもこの剣、刃は潰してますけど鈍器に変わりないですよ?当たったら怪我しますって!」
「心配するな。貴方では傷つけられんよ」
「・・・それもそれで腹立つ返し」

 説教にも似た忠告を受けたばかりの慧卓は息を吐きながら素直に剣を正眼に構えて、脇を開いて右足を一歩退きながら上段に構えた。自分の膂力と精神の全てをつぎ込める一撃、それが飾りの無い上段斬りである。
 アリッサは慧卓に向き直る。距離は20メートルほど。彼女であるなら鎧を着用していても数秒内に詰め寄れる距離だ。

「準備はいいな?行くぞっ」
「往っ!」

 言うなりアリッサは剣を真っ直ぐに突き立てながら疾駆する。猛然と走り眼光を光らせる姿は獣のようで、眼前の敵に恐怖心を抱かせるに充分過ぎるものだ。
 剣は届かないだろう。届く前に斬られる。散々に打ちのめされた今の彼ならばそれは当然過ぎる推測だ。だがせめて、せめて一矢でいいから彼女の肝を冷やしてやりたい。現役の騎士に己の力量と一抹でいいいから認めて欲しい。
 思考を巡らす内に、剣の距離にアリッサがぐいと踏み入った。

(今っ!!)

 全力で剣を振り下ろす慧卓。足腰を強く踏ん張った一振りは彼の中ではこれ以上無い程のものだ。
 だがアリッサはその上を遥かに行く。両手に持った剣を下から払い上げて、慧卓の剣を唾に近い部分で受け止める。全速
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ