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王道を走れば:幻想にて
第三章、その3の1:遠因の発生
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声を荒げる。温厚さをかなぐり捨てた彼女の目元は怒気と心配に歪み、ミラーの不甲斐無き横顔を見下ろしている。

「何故もっと全うな方法でお金を得ようと考えないのですか!?私共は取るに足らぬ端くれといえども、栄誉ある貴族の一員なのですよ!自らの矜持を品位を外道に貶めるなんて、御父上がお嘆きになっていると思わないのですか!?
 加えて・・・なんですか、この酒瓶は!?ブランチャードの家督を辱めるような酒乱癖に陥るほど、私共は貧窮しているとお認めになる御積りですか!なんと情けない!宮廷には貴方の席がまだ残っているのでしょう!?」
「知ったような口を聞くな!!」

 激高した口調でミラーは立ち上がる。その勢いに椅子が横に倒れ、背凭れの部分が床の酒瓶に直撃した。両者の怒りの視線が交わりあい、騒然たる修羅場の様相を呈した。

「我が使命は詩にこそある!酒と女を愉しむ下賎なものではなく、世の移りを受け入れ、権威の腐敗を留まらせる崇高な詩だ!だが宮中の連中はその精神を微塵も理解せず、私を憚っているのだぞ!?父祖三代、王国に命を捧げたこのブランチャードをだ!!・・・今更戻っても、私に宛がわれる職務など無きに等しいのだ」
「彼らに理解を頼めば宜しいではないですか!一つの詩に拘るから、いつまでもいつまでも受け入れられないのではないのですか?」
「おっ、お前っ・・・例え妻であろうともそれだけは許さんぞっ!!我が詩の精神を侮辱するなど言語道断っ!!撤回しろっ!!!」
「いいえ、撤回致しません!貴方が宮中に戻り、己の為すべき事を為さぬまで、絶対に撤回しませんからね!」

 ミントはふんと鼻息荒げにミラーを睨み、足早に扉の方へと身体を向けた。長丁場の喧嘩をする気は無かったようだ。 

「私がこのままこの場にいたら、今度はその心だけではなく、拳まで傷つけてしまいますわ。ですから早く、冷静に、御自身をお見詰め下さいませ」
「お前とてそうだ!自分に出来る事を確りと理解しておけ!!この世の中、財貨もまた命の詩なのだ!!」

 最後に放たれた言葉にミントは秀麗な顔付きを一度引き攣らせ、そして荒々しい足つきで部屋の外へ出て行った。
 ミラーは開け放たれたままの扉を閉め、そのまま寝台に腰を落とす。怒りに澱んでいた顔は何時の間にか、己に対する後悔の色に染まっていた。深い自嘲気味な溜息が漏れる。

「はぁぁ・・・なんて事を、私は・・・」

 酒気を帯びていたとはいえ、ミントの言葉に激発したのは紛れも無く彼自身の理性によるものである。なまじ詩人としての矜持を怒りの手で撫でられただけに、氷細工のように繊細で刺激を受けやすいその詩の精神が反応してしまったのだ。それに加えて彼を悩ませたのが最後に放たれた一言。貴族にあるまじき俗物染みた発言。
 ミラーは己に失望する。なんと
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