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王道を走れば:幻想にて
第三章、その2:西日に染まる
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っと待って・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 汗ばみ、息を荒げる慧卓。王都の内壁の内側には品の良い市場や商人の支店が設けられてそれぞれが耳に残る客引きの声を放っていたのだが、慧卓はそれらに馬耳東風を決め込み、というよりも強いられており、先にとんとんと進んで行く熊美の後に追い縋った。
 人行きの多い通りの端で立ち止まった熊美に対し、慧卓は声を整えながら言う。

「あの、ちょっといいでしょうか?」
「あら、もう飽きちゃったのかしら?まだ回ってない所はあるわよ。斧槍専門店の『ヘルサイズ』に、貴族御用達の宝飾店『キーリンの祈り』、王立高等魔術学院直轄の第二魔道研究所でしょ。他には・・・」
「いやそういうんじゃなくてですね・・・」
「なに?」
「なんで俺が荷物持ちなんですか!?」

 両手からぶら下がる三つの皮袋を揺すって慧卓は抗議する。袋の底は重みで変形し、四角いもので内側から圧迫されたか袋全体が角ばっている印象を受ける。紐で締められた口も随分と窮屈そうだ。
 これも全ては熊美の要らぬ努力の賜物である。行く先々で金銭で商人の顔を緩ませ、慧卓に艱難を押し付けるのだ。やれ宝飾、やれ衣装、やれブーツ。お陰で慧卓の掌は皮袋の紐によって何本もの赤い線が刻まれていた。

「だ、だってしょうがないじゃない!前に来た時よりも凄く街並みが変わっているし、目新しさで一杯なのよ!だから昔稼いで使わずに取っておいて、偶然金庫に残っていたお金で買い物しちゃうのよ!」
「言い訳になりませんよね、それ。大体ですよ、王都の案内ですよね、今日の目的は」
「そうよ。だから一杯買ってあげてるんでしょ、王都の商品案内って事で」
「あ、そうなんですか!じゃぁこれも案内の副産物に入るんですか?」
「そうそう、それも・・・って」

 ぴくりと目元をひくつかせる熊美。その視線は慧卓がおもむろに取り出した、まるで肢体の間に隆起した海綿体の如き木造の工芸品に注がれていた。

「なにそれ」
「ディルドーじゃないですか?」
「なんのために」
「インカ的カパックするために」
「私買ってないわよ。誰が押し付けてきたの?」
「今あそこの曲がり角に消えたスターリンみたいなおっさんから」
「ちょっと待ってなさい」

 肩を怒らせるように熊美は颯爽と通りの雑踏を早足で擦り抜け、錬金術師、またの名を調合師が開く店の横へ消えて行った。慧卓は手に持ったディルドーらしきものを顔の前に掲げながら疑問符を浮かべる。  

(なんでスターリン?ベリヤだろ、普通)

 性愛的な道具についてはそうであろう。目前でぶるぶる揺れるディルドーは強く握れば震動すら起こしてしまいそうなリアルな彫が刻まれていた。
 ふと、男の短い悲鳴を聞いて慧卓は顔を向ける。その男は髪を短く刈り込んでオールバッ
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