第五十二話 思春期E
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けなかった。振り回すことはあっても、振り回されることは少なかったからだ。エイカの横顔とたい焼きを、何度も見比べ、恐る恐る口に含む。甘すぎず、滑らかな舌触りが感じられた。
一口食べながら、アルヴィンは考えていた。エイカの行動は、未だによくわかっていない。彼女は口で説明するよりも、先に行動へ移してしまうからである。何故、公園にいるのか。何故、たい焼きを奢ってくれたのか。何故、たい焼きを食べるのに、条件があるのか。それらの疑問を統合した時、1つの答えが出てきた。
……エイカは、俺を励まそうとしている? 確信を持てないが、アルヴィンはストンと腑に落ちた。彼女に聞いたって、きっと顔を真っ赤にしながら否定するだろう。ふざけたことを言うなって。
「―――ぷはッ」
その様子を想像してしまい、思わず吹き出してしまった。たい焼きの餡が気管に入り、盛大に噎せる。エイカに目を見開かれ、その顔にまたお腹が痛くなった。
「お、おい…」
「わ、悪い。ごほっ、くくッ…。えほっ。あー、涙まで出てきた」
噎せた苦しさと、面白さに目じりに涙が浮かぶ。励ますにしても、もっと他にも方法があるだろう。いや、でも、ある意味エイカらしい。そう考えると、アルヴィンはまた笑ってしまった。
たい焼き1つで、励まされた。
「……アリシアにさ、ずるいって言われたんだ。魔法とか、レアスキルを俺が使えて、なんで私は使えないのかって」
「それは…」
「わかっている。アリシアだって、それはきっと……わかっていると思う」
たい焼きを食べ終わったアルヴィンは、気づけば口に出していた。あれほど鬱々としていた思いを、こんなにもあっさりと話せたことに、また笑みがこぼれる。たい焼きパワー様様である。
またアリシアのことに、エイカは少し驚きながらも、小さくうなずいていた。アリシアの魔法を見たことが、何度かあったからだ。それに、思うところがないわけではなかった。
「俺がさ、アリシアの魔力資質を知っていたのに、幼い時から魔法に触れさせてしまった。誰だって、周りはできるのに、自分ができなかったら辛いに決まっている。アリシアのことを、もっとちゃんと見といてやるべきだった」
アルヴィンの中にあった後悔。気づいてやれなかった、傷つけてしまった。だけど、これからどうすればいいのかわからなかった。
「俺がもっと配慮してやったり、魔法とかレアスキルとか自重しておけば、アリシアがあんなに傷つくことはなかったかもしれない。だけど、今更過去は変えられないし、これから先でやめることはできないと思う」
持っている力を使わない。それは、言葉は簡単でも実行に移すのは難しいことだ。使わない努力をしても、持っていればいつかきっと使ってしまうだろう。アルヴィン
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