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王道を走れば:幻想にて
第三章、その1の3:方々に咲く企み
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っ!聖鐘を見給え!あれの最上階、鐘の下側に落し戸が一つ在り、その下にもう一つ隠し戸がある。其処に『黒檀の義眼』の地図は安置されているのさ」

 若者の指は王都の象徴である聖鐘を、正確を期すならばそのやや下の辺り、二重戸の中にある地図を真っ直ぐに指差していた。

「残念ながら実物は見せてもらえなかったよ。如何にも開けるには一苦労いるようだからね。だが落し戸の中にあるのは間違いないさ。『探知』の魔術で調べてある」
「・・・解セヌ。何故、我等のような信頼モ何モ無い者共ニ国家の秘宝の在り処ヲ・・・」
「知るものかっ。教会の人間なんてどいつもこいつも腐りきっている!況や、その末端の人間の腐り具合といったら酷いものだ。知っているかね!?此処の教会の人間は商人共や賊共と釣るんで、幼子の売買まで手を掛けているのだよっ!これを酷いと言わずしてなんと呼ぶんだい!?」

 言葉を紡ぐ彼の顔からは笑みは大分消えており、代わりに明瞭な義憤の赤らみが浮かんでいた。真剣みのある瞳をした若者は好戦的な笑みを取り戻し、演説をするかのように語り始める。

「最早名誉も誇りも無い彼等に、況や王国に遠慮はいらぬだろう?彼らの威厳を潰し、剣を叩き折り、王冠を踏み潰すっっ!そしてっ、その後背に聳え立つ樫の木を、真実の業火に包み込むのだっ!!全てを破却したその後に、我等の栄華の王国が築かれる事であろう!!」

 熱く語った彼は再び宮廷の方へと身体の向きを変えて、その中枢に眠っている敵の者達を睨み据えた。一方で他の二人はしらけた表情で小さな本音を交し合った。

(・・・ってあいつは言うけどよぉ、如何する?俺は宝以外興味ないんだけどさ)
(私モ、他のものに用ガある。秘宝の在り処などニ興味は無いシ、まして王国の興廃など、眼中に無い)
(あ、そう。ってぇ事は俺等の用事が終わり次第、直ぐに手を引くって事でいいか?)
(あぁ、それが良かろう)

 小さく利得のままに頷きあう二人を他所に、若者はどんどんと演説のボルテージを上昇させていった。

「ふははははっ!!待っていろ、帝国の傀儡共ぉ!!この義賊、チェスター・ザ・ソードが、貴様達の淪落非道の夢幻を静謐冥府の地の底まで叩き落してその腹に眠る欲得の腸を三寸刻みに裁断して一つ一つを業火に熱して、うぅっげほっげほっ、げほっ!!!」
「あーあ、難しい事を言い続けるから・・・」
「馬鹿だナ」

 肺活量の限界に達して咳き込むチェスターに呆れるように二人は肩を竦めて、それぞれの思いで聖鐘を見詰めた。
 虎の体躯を持つ男は笑みを一つ浮かべる。

(・・・わくわくするねぇ)

 にやりと歪んだそれは、野蛮な獣に追い詰められて絶望の淵に立たされる狩人を見下すような、嗜虐的で挑発的な笑みであった。その心もまた、鍛造(たんぞう)
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