第三章、その1の3:方々に咲く企み
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々しさと哲学的な知見を湛えており、パウリナの心に圧し掛かった。男は小さく息を吐く。
「・・・迷惑をかけてすまん。だが此処は是非にも、お前に折れて欲しいのだ」
「・・・・・・最小限ですよ?」
「約束しよう」
逡巡もなく放たれた力強き言葉にパウリナは溜息を吐きながらも、仕方ないとばかりに仄かな苦笑を浮かべた。
「・・・案内します。私の塒です」
「感謝する」
通りの端の暗闇を選ぶように歩きながら、二人は王都に潜む一人の盗賊の塒へと向かっていく。油断なく周囲を警戒しつつ歩く男の顔には、唯の剣閃や魔法の煌き如きでは怯まぬほどの荘厳な決意が秘められていた。
(直ぐにだ。直ぐに結果が分かる)
心中の思いは他人には分からぬほどに潜められているが男には分かる。それは常に灼熱の溶岩の如く熱を発し、心臓の奥底から魔獣にも似た人外の力を引き摺り出すに相応しき力を秘めているのだ。
ふと、目の前でパウリナが苦笑気味に振り返ってきた。
「そういえば御主人」
「なんだ?」
「あの、これだけ旅に付き合った挙句今更な質問なんですけど・・・御主人の名前は?」
「・・・ああ、そういえばそうだったな」
釣られて男もまた笑みを作り、確りとした口調で告げる。
「俺の名はユミルという。これからはそれで構わんぞ」
「了解です、御主人!」
「・・・呼んでもいいんだぞ・・・」
「わかってますよ、御主人!」
「もういいよ・・・」
力無く吐かれた息に揺らされたロープの中からやや細目、やや垂れ眉の物怖じしないような厳しい顔付きの男が見えた。だが常の逞しさとは打って変わり、この時に限って何処か打ちのめされたかのように凹んでいるようであった。
王都の中央南地区。宮殿の正門が構えられているだけあって治安に非常に煩い地区である。
この地区に足を踏み入れる事が叶った浮浪者の臭いとて此処では劇毒ものであり、即座に強権好きの憲兵により牢屋へ叩き込まれるだろう。文句を言ってはならない。何故ならば憲兵の背後には燦燦たる赤百合の旗を掲げる、王都臣民に悪名高き神言教の神官達が居るからだ。改革の精神は何処へやら、今では祈りを捧げるよりも、悪徳に身を窶して手っ取り早く金銭を稼ぐ者の方が多いという事態が起こっている様であり、純真無垢な臣民の祈りは形だけのものとなってしまっている。
その様子を改善すべき王都の宮廷は順風に煽られる麦のように穏やかなままであり、知らぬ存ぜぬの態度を決め込んでいた。臣民の啜り泣きを王都の聖鐘がぶっきらぼうに見下ろしていた。
そんな南地区の一角には一つの用水路が形成されている。荷物の運搬の迅速化を目指したこの水路には幾つもの小舟が浮かべられており、普段は長い竿で舟を漕ぐ男達が目立っている。一
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