第三章、その1の3:方々に咲く企み
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と、初めまして、キーラ様。ケイタク=ミジョーと申します。異界より『セラム』の方へと参りました」
「は、初めまして。私、キーラと申します・・・」
落ち込み気味で拙さが見える礼を出す彼女に、慧卓はどうやって始めの言葉を掛ければよいか思いつかず口を噤んでしまう。だが沈黙を生み出さぬよう、敬語も交えぬ親しげな口調でコーデリアが彼女に話し掛けた。
「・・・思えば、随分久しぶりな気がするね。最後に晩餐会に出たのは何時だったっけ?」
「た、確か、三月ほど前になります・・・それ以来、私の家は会に出るほどの余裕が無くなりまして・・・」
「昔はそうではなかったのに・・・覚えている?私が十歳の頃、踊りを覚えるために侍従長から貴女が宛がわれたのを?」
「えぇ、今でも覚えております。最初は私達、ずっと躓いたり、転んだりしてましたね」
「そうそう、侍従長からのお叱りがまた怖くってね。『殿方の足を傷つけるなど、婦女にあるまじき失態です!』とか言われてね」
「言われましたね・・・それで御説教が怖くて怖くて、何度も泣いたりして・・・」
(えーなにこれ。俺、空気じゃなーい・・・)
昔語りをする女性陣二人は実に愉しげでとても邪魔できるような雰囲気ではない。自然と男であり共通の思い出も無い慧卓は唐突に唯の木偶の坊と化した。
「それに歌の練習!声が直ぐに裏返って咳き込んだりしてね!」
「はい、ありましたね。足を運びながら歌声を出すのがあんなに難しいとは思いもしませんでした・・・」
「舞踏と歌唱は乙女の嗜みとはいうけど、あそこまで厳しく何度も続けては流石に身体が持つわけないわ」
「ですがその甲斐あって今の貴女が居るのですよ。侍従長の先見の明には感謝して然るべきだと思います」
「うーん。先行投資が重過ぎるなぁ・・・」
(ま、いっか。こういう時に我慢するのも男の務めだしな。でも長いのは簡便してくれ・・・)
慧卓の願いを他所に嬉々としたガールズトークは続いていく。ぼうっと突っ立つ慧卓は一つの区切りがつくまで只管に耐え、凡そ二十分近く夜風を寂しげに愉しんでいた。
話に区切りがつくと、キーラは少しばかり曇りの消えた笑みを浮かべていた。
「・・・コーデリア様。今宵は有難う御座います。久方ぶりに友達に遭えて、心が少し晴れました」
「キーラ・・・」
だがその色は寒風の中で今にも消えかけている霜のように儚げで、もしやすると葬礼を決め込む死人の雰囲気に似ているような気もするのであった。
此処で彼女の気を晴らさねば、此処ではない彼岸の花園で草枕に臥すやもしれない。一種の危機感を感じ取った慧卓は、感覚が告げるままに彼女に話し掛けた。
「キーラ様、少し宜しいですか?」
「ケイタク様?」
「あ、あの、ケイタク様・・・私になにか?」
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