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王道を走れば:幻想にて
第三章、その1の2:社交的舞踏会
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「・・・そうか、時間をとってすまなかったな」
「いえいえ。またいらして下さいね、旦那さん。今度はもっといいもん用意しときますので」
「あぁ、また来よう」

 気さくな商人に礼を告げて茶褐色のロープを纏った男は、ざわざわと活況を呈する王都の街中を歩いていく。男の手に握られた布切れには幾つかの所在地や名称らしき綴りが走っており、魚の鱗のように広がる雲から注ぐ茜光に照らされて、線の中の粒子がきらきらと煌いていた。男はその一文を木炭の黒でびっと塗り潰す。 

「此処も外れか・・・」
「おーい、御主人よぉぉぃ!!」
「む?パウリナか」

 鬱蒼とした林のような人混みの中を、実に楽々と擦り抜けながらパウリナが姿を現した。暑さにやられたか、健康な汗を額に掻いていた。  

「向こうも周って来たんですけど、さっぱり当たりませんよ!本当にこの情報は合っているんすか?」
「・・・俺の記憶ではそうなんだがな」
「でも十年前の話なんすよね?其の時に結構な活躍をしてた方なんだから、今頃は地方で頑張っているか、若しくはあそこじゃないですか?人探しってのは楽じゃありませんよねー」

 彼女が指差す先に建立されているのは王都の宮殿。区画ごと高い内壁に囲まれているに関わらず、丘陵の上に立っている為か盛り上がって見えていた。宮殿は赤い光を受けて、その純白を更に美しく、気高く彩っている。男は不満の息を漏らした。

「・・・民草の中に混じって生活を営んでいると思っていたが、夕刻近くまで都を練り歩き、掴んだ情報が皆無となれば最早あそこしか考えられないかのか・・・?」
「まっ、あたし達じゃ正面から入れませんけどね。騎士連中は堅苦しいし、壁は高いし、おまけに税金高いし」
「最後はいらんだろう」
「貴族になるのも大変ですよね〜」

 飄々としたパウリナの態度が苦労を重ねてきた男に僅かな苛立ちを与える。 

「なぁパウリナよ。手詰まりに近い状態なのにお前は随分と余裕そうだな。何か考えでもあるか?」
「ええ勿論。でも御主人から聞かせてもらえますか?」
「・・・正面突破だ。衛兵を切倒す」
「ちょっ!?極悪人になる心算ですか!?止めて下さいよ、血生臭いっ!!」
「だが俺はこれしか、一辺倒な武技しか能が無い。他に如何しろというのだ」
「はぁ・・・御主人って、案外脳味噌が筋肉だらけなんすね」

 肩を竦めてやれやれと苦笑を漏らす彼女の態度がやけに気に障る。彼女はひらひらと手招きをして歩いていく。

「まぁ付いて来て下さいよ。明日中には入れるようになりますから」
「・・・期待しよう」

 赤髪の美女に釣られるままに男は歩いていく。向かう先は外壁に聳える外門の直ぐ近く。宮殿に背にする形で歩く彼らに、赤い西日が差し込んで頬を染め上げた。



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