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王道を走れば:幻想にて
第三章、その1の2:社交的舞踏会
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目を遣る執政長官の顔。それがやけに印象的で目が離せなかったのだ。
 慧卓が熊美の隣に立って貴族等の方へと向き直り、胸に手を当てて軽やかに一礼をした。それを見てからレイモンドは言う。

「陛下」
「うむ。では皆、杯を持て」

 貴族等は一斉に銀色のゴブレットを掲げる。今宵は給仕として務めるクィニが慧卓等にゴブレットを運んできた。紫色の湖面が美しく揺れている。

「今宵の宴、大いに愉しむが良い。乾杯」
『乾杯』

 音頭に合わせてそれを口に含む。驚いた事に中のそれは葡萄酒ではなく、豊潤な味わいの葡萄のジュースであった。クィニが気を利かせてくれたお陰で、今宵は失態を晒さなくても良いらしい。 
 リュートを使った静かで上品な演奏が流れる中、参列者は徐々に会話の華を、社交の宴を始めていった。熊美は慧卓を見遣ってにやける。

「堂々と歩く様、いけていたわよ。中々やるじゃない」
「有難う御座います、熊美さん」

 常に無い冷静さと余裕を見せる返事に熊美は苦笑を浮かべた。

「今日はずっとそのキャラなのね?」
「えぇ。一度態度を崩すとなし崩しにボロが出ますので。ですから今日は凛々しく構えていってみようかと思います・・・如何でしょうか、アリッサさん」
「・・・えっ?あっ、あの、凛々しくて、格好良かった、ぞ」

 一瞬答えに窮しながらもアリッサはどこか彼方へ目を遣りながら応えた。彼女の返答に照れた様子で慧卓は応えた。 

「あ、有難う御座います・・・アリッサさん」
「あ、あぁ」

 視線を合わせぬ言葉の交わしあいに熊美が胸焼けを起こしている中、一人の男が熊美に言葉を掛けた。カイゼル髭がよく似合う紳士的な大柄の男性であり、顔に幾筋も深い皺が刻み込まれている。

「・・・失礼致す。クマ、俺の事を覚えているかな?」
「む?おお、お前は・・・」

 熊美はその男の顔を見詰め、ぱっと顔を晴らして二人で肩を叩き合った。

「久しいではないか、オルヴァ!!」
「ああ、三十年振りだ!!はははっ、相変わらず厳しい面構えだ!」
「放っておけ!なんだお前、髭を生やしていたのか!?随分と似合っているではないか!其の分老衰したか?」
「それこそ放っておけ!」

 快活に笑いあう二人を見て慧卓は疑問符を浮かべ、アリッサにそれを尋ねた。 

「何方です?」
「オルヴァ==マッキンガー子爵。王国近衛騎士団の総長だ」
「そっ、総長ですと?しかも爵位付きって・・・」
「戦乱時のクマ殿の朋友らしいぞ。山賊の身分から成り上がり、今では王国の歴史上初めて、貴族以外の近衛騎士団の総長だ」

 両者は破顔しながら徐々に会場の壁際へと移動していく。壁沿いにはテーブルが幾つも並べられて、食欲を誘惑するような美味の数々が並べられていた。
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