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王道を走れば:幻想にて
第二章、終幕:初旅の終わり ※エロ注意
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 ミラーの頬に触れる程度の口付けをした後にその女性、ミントは問う。

「こんな夜更けに、どうなされました?」
「あ、ああ、いや、なんでもない。少々酒を進みすぎて気分が優れなかったのでな、少し夜風に当たりたかったのだ」
「それならばバルコニーに上がれば宜しかったのでは?何故態々裏門に?」
「そ、それは庭園の花を愉しみたかったからだ!分かるだろう?夜風に靡きはらはらと魅せる、麗しき花弁の優しさをさ」
「まあ、相変わらず詩人でいらっしゃる事。昔からずっと、其処だけは変わっておりませんね」

 緩やかに瞳を細めるミントに男、ブランフォード男爵家当主であるミラーは一先ずの安堵を抱え、彼女に優しく語りかけた。

「さぁミント。余り夜更かしをすると身体に障る。お前はそろそろ寝なさい」
「はい、そう致します。ですが其の前にあの子を」
「・・・そうだな。キーラ!其処に居るのだろう?何故隠れている?隠れるような疚しい事でもしたのかね?」
「・・・い、いいえ、お父様!そのような事は断じてしておりません!!」
「そうならば顔を見せなさい」
「は、はい」

 二人が視線を向ける先、一階右手奥の部屋の方から一人の麗しき少女がおずおずと現れてきた。薄い純白のナイトガウンに身を包むその女性、髪は癖も乱れも無い水面のような水色で、さらりと背中に垂れている。美麗な原子が一粒一粒が合わさって至高の輝きを放つ宝玉のような翠色の瞳は、それ故に純真的な魅力を併せ持つものであった。若さゆえの美しき肌には余計な染みや黒子は無い。研磨師によって徹底的に磨き抜かれた陶磁のような美肌であり、同時にその肌は美体を描く彫像のように起伏に富んだ姿でもあった。
 その少女は体の前に手を組み、叱りを受けて恐縮する子供のような佇まいで言葉を待った。

「・・・キーラ、お前も随分と夜更かしが過ぎるな。また魔術の勉強かな?」
「は、はい、お父様。お父様や、お母様の期待に応えるために日々研鑽を重ねていた折、何やら話し声が聞こえてきたもので・・・」
「成程。それならば仕方は無いか。だがキーラ。華は日の光を受けて逞しく育ち、その可憐さを咲き誇らせるものだ。夜に咲いては紅の虫だけが、悪徳の手足で以ってお前を攫ってしまう。注意しなさい」
「は、はい。申し訳御座いません・・・」
「・・・しかし今日に限っては良い事だ」
「?」

 ミラーは扉に向けて二度、大きく手を叩いた。外開きの戸が開き、執事が姿を現す。

「あれを持ってきなさい。ほら、あれだ」
「・・・成程、承知致しました」

 恭しく礼をした執事は背を向けて去る。ミラーはキーラに向かって愉しげに微笑みかけた。

「お前に見せたいものがあるのだ。私からの、ささやかな贈り物さ」
「そ、それは一体なんでしょうか?」

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