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王道を走れば:幻想にて
第二章、終幕:初旅の終わり ※エロ注意
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二台の馬車が立っていた。どちらにしても貴族が着て相応のものを着てはいるが、邸宅を背にする者は貧しさが、馬車を背にする者は卑しさが見受けられる格好であった。後者に至ってはその小太りの体格且つ禿げの迫る頭部でされ、卑しさを強調する者に見えて仕方ない。
 貧しき男は佇みながら、静かなままの男に問う。

「・・・約束の、財貨は何処にある?」
「・・・其処だ」

 二台目の馬車を指差した瞬間貧しき男は駆け出し、その荷台に乗せられた価値ある物に目を配った。 

「・・・重装の鋼鉄鎧一式が五つに、調度品八つ、指輪三つ・・・それにドレス?」
「貴様の家では、国王陛下に謁見するに相応しき衣服を拵えるような余裕すら無いと聞く。鎧などを売ればそれなりの足しにはなるだろう?名のある貴族の所有物と聞けば、商人等も媚び諂って飛びつくさ。なぁ、貧乏貴族の御当主様?」

 憤怒を抱えた表情で男は睨む。卑しき男は嗜虐的な愉悦の笑みを浮かべて言う。

「貴様の血族に価値は無くとも、貴様の家名には価値がある。分かっているだろう?」
「ぐっ・・・」
「おっと、宮中の晩餐会に招待を受けていないような下級の貴族がこの私に触れる事が許されるとでも?私は執政長官、即ち侯爵閣下の側近だぞ?貴様よりも高い位に座す者だ。敬意を払い給え」

 中年の男は口元を抑えながら笑みを抑えつつ見下した視線で、男から見れば貧相な衣服を召した貴族の男をなじる。

「約束は履行し、これで我等の関係も清算された。これより先は自分の力で生き抜いていくんだな、ブランチャード、男爵殿?」

 階位を強調する言い方の後、男は馬車に乗って御者に鞭を打たせた。からからと石畳を駆ける音が響いて、小太りの男を乗せた車が去っていく。
 残された男は未だ怒りを抱えたままの表情でその背中を睨みつけていた。

(・・・何故執政長官殿は、あのような下賎な者を近くに置かれる?)
「御荷物を運びましょう、どちらへ?」
「・・・蔵の中だ。後で私が売り払う」
「承知」

 傍に控えさせていた中年の執事に言いつけて男は馬車から降り、邸宅の中へと引き下がる。邸宅は貴族の館にしてはこじんまりとした中身である。高価そうな壷も無ければ技の髄を極めたような絵画も置かれていない。辛うじて壁に剣の壁掛けが掛かっている程度である。この家は贅沢な貴族の家というよりも寧ろ、特別高価な物が見受けられない、極めて平凡な一般庶民の住宅となんら変わりの無い家であった。
 扉の閉まる音に気付いたか、階段の上より女性の声が届いてきた。

「・・・ミラー様?」
「っ、お、お前かミント」

 入り口の戸の目前にある階段から、実にゆったりとした動きで御淑やかな貴婦人が降りてきた。薄手の寝巻きに身を包んだ、水色の長髪が似合う女性である。
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