第百七十一話 ユリアン帰還
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宇宙暦794年8月31日
■自由惑星同盟首都星ハイネセン
ユリアンが居なくなって以来ヤン・ウェンリーの官舎は腐海となりつつあった。彼方此方に洗濯しないで放置された下着や、テイクアウトで買った食べ物の残り滓、飲みかけで発酵し酢になった酒など、酷い状態で有る。そんなゴミ屋敷の住人の元に、一本の電話がかかってきた。
「ヤン、居るんだろう、返事ぐらいしろ」
アレックス・キャゼルヌからの電話であった。ヤンは仕方なしに電話に出る。
「先輩ですか、どうかしましたか?」
ヤンのだらしない格好と、その背景を見てキャゼルヌは眉をしかめながら話す。
「ヤン、お前、部屋の掃除ぐらいしないと、ユリアンが泣くぞ」
ユリアンの事を言われたヤンの顔が曇る。
「ユリアン、元気にしているんでしょうか?」
「ヤン、お前さんに良い話があるぞ」
ヤンの質問には答えずにキャゼルヌは話す。
「良い話ですか?」
「ああ、良い話だ」
「何ですか?」
「お前さんは、十月一日付けで准将に昇進だそうだ。それに伴い官舎も移動になる、丁度家の二軒隣りだな」
「別に、准将なんて成りたくもないですから、それよりさっさと退役したいですよ」
ヤンがおざなりに話す。
「そう言うなよ。それでユリアンなんだが」
「どうなりました?」
昇進よりユリアンが心配なヤンは真剣な表情で話を聞く。
「情報部の取り調べと裏付け捜査で、ユリアンには一切、帝国側からのアプローチが無かったことが判明したよ」
「それじゃ、ユリアンは無事なんですね」
喜ぶヤン。
「ああ、元気にしているそうだ、それで今後のことだが、ミンツ大尉については嫌疑不十分と言う事になる」
そう言いながらもキャゼルヌの表情は冴えない。
「先輩、どうしました?」
「ヤン、お前さんも知っているだろうが、ローゼンリッターの事だ」
「上層部が、鬼の首を取ったようにシェーンコップ中佐の罪を宣伝していることですか?」
(この当時同盟政府と軍は同盟市民からの支持率と軍の威信のために、大々的に亡命者たるローゼンリッターとワルター・フォン・シェーンコップ中佐をスパイマスターとしてマスコミを使い大々的に弾劾していたのである。)
「ああ、それだ、それに関して、ミンツ大尉の事も有耶無耶にするらしい、それに伴いユリアンも無罪放免という感じだそうだ、所謂臭いものに蓋をするって事だ」
キャゼルヌの浮かない表情より、ユリアンの事が心配なヤンはユリアンの事を聞く。
「先輩、でユリアンはどうなるんですか?」
「それでだ、シトレ元帥も骨を折ってくれて、ユリアンは元の保護者の元へ帰す事に成った」
そう言われたヤンは、ユリアンが家に来る前に居た場所を思い出そうとしたが、思い出せない。
「それは、何
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