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王道を走れば:幻想にて
第二章、その4:甘味の後味
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だな...それに、聡明な目付きだ...)

 手下の草、つまり間諜を放つだけに留まらず、自らの目で見に来た甲斐があったといえよう。でなければ街全体に漂うこの繁盛の香りを理解出来ず、そしてその発起人の顔に隠れた深淵も垣間見れなかったに違いない。

(恐らくこの盛大な祭事も奴の発案によるものであろうな。でなければこんな、こんないじらしいお面っ、誰が考えつこうか!)

 問題は其処ではない。
 交通の要衝として栄えていたこの街が更に活気を増しているのだ。その勢い、若人に分からずともこの男には理解出来る。今此の街はこの行事の力を借りて、王都を越えて、王国一の活気漲る街へと変貌しているのだ。

(...これは執政長官殿に油断成らぬよう上申する必要があるな...)

 御面のお陰で、男の険しき表情が隠れるのが幸いである。面に現れるうざったい口の歪みを撫でながら、男は踵を返し、人混みの中へと消えて行った。
 男の心情を露も知らぬ若人は、王女の冗談を耳にしたか、照れ臭そうに笑みを浮かべていた。




「ふぅ...」

 賢者に似た溜息を零す慧卓。散々に遊びまわったからか、疲れで身体の節々に気持ちの良い疲労が走っていた。
 既に日は落ち始め、熟れたオレンジのような空が広がっている。明かるい空に靡く雲はまるで魚の鱗のように和やかであり、心を穏やかなものにさせてくれる。
 街に広がる盛況の風景も今では下火となっており、稼ぎに満足を覚えぬ商人と、暇を持て余した者達だけが通りを歩いている。後は皆、欲を充分に充足させたのか、既に家路に着いていた。
 かくいう慧卓とコーデリアも同じ様相である。但し違う点があるといえば、穏やかに眠るコーデリアを慧卓がおぶっているという点である。

「ほら〜、コーデリア。そろそろ宿屋だから起きなさい」
「くぅ......すぅ......」
「あーあ、こりゃ完全に寝ちゃってるわ...」

 背中に感じる重みは、人を背負っていると考えれば実に軽やかなもの。普通の者が鉛とするなれば、コーデリアは羽毛の布団のようである。温かみと柔らかな感触は正に女性の美の典型。まるで一級の香水でもつけているのかと思わせる程、彼女の香りは芳しいものである。
 其処で慧卓がはっと、今の状況を理解した。

(あれ...もしかして、俺、今物凄くチャンスなんじゃないか!?)

 眠り姫と護衛。彼が想起した事、即ち一夜を越える事。若々しき身体をこの世界で持て余していただけに、一端其の手の事を思考してしまえば突如として身体がそれに反応してしまう。特に耳の近くで感じる彼女の呼吸と、そして背中に無防備に押し付けられる柔らかな二つの双丘の存在に。そして本能は言う、『もっと欲張ってもいいんじゃよ』と。

(いやいや落ち着け!背中に柔
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