第二章、その4:甘味の後味
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「そうなのですか?ちょっとお腹が減っているのですが、貴方がそういうならそうしておきましょう」
そういうコーデリアの前に、宿屋の主人が朝餉を運んでくる。慧卓と同じ、白パン二つに紅茶のセットだ。焼かれてからそれ程時間が経っていないらしく、しなやかな手で千切られるそれからはほんわかとした香りが漂ってきた。
一口一口、コーデリアはパンをゆっくりと噛み締めては嚥下する。慧卓は何気となく彼女を見遣る。咀嚼する間に眠気がまた来たのか、瞼が先程よりも降りてきており、まるで赤ん坊のようにゆっくりと初々しく口元を動かして、コーデリアはパンを食べている。
「むー......」
(あー...可愛いなぁ...)
漏れ出す唸り声ですら心を揺り動かす可憐さを兼ね備えている。慧卓は彼女に見えぬように笑みを浮かべながら、付き人らしく叱責の声を優しく掛ける。
「王女様、食事中に寝ちゃ駄目ですよ」
「分かっているのですけど...もう、貴方のせいですからね」
「あっ、あははは...御免なさい。まぁ、時が来ればそんな眠気も、楽しさと喜びで吹き飛んでしまいますがね」
慧卓の言葉にコーデリアは頸を傾げるも、それよりも空腹の消化を優先させてパンを嚥下していく。
食事を進めるうちに眠気が消えていったのか、二人はちょくちょくと会話を愉しみながらパンと紅茶をを胃の中に収めていく。
「...明後日で出立、ですか」
「えぇ、何でも街の方々が王女様を御歓待申し上げたいとの事ですから」
「有り難い話なのですが、良いのでしょうか...山賊討伐こそが我等の主命であったのに、その帰り道にこのような歓待を甘受してしまっても...」
「王女様は堅苦しく考えすぎです。為政者といえども、時には息抜きは大事ですよ。でなければ心身が硬くなってしまいます」
「そうなのでしょうか?何時如何なる時も常に政や契約に誠実たれという事が、為政者としての責務だと思うんですが...」
慧卓は肩を竦めて紅茶を飲み干す。時は既に三十分は経っていようか、遅めの朝餉を済ましたコーデリアはふぅっと息を吐いて、椅子に座りながら窓の外を見詰める。どうにも彼女は外の様子が気になるようである。
「実を言うとですね、王女様を歓待したいというのは、何も彼らだけではありません。俺達もです」
「?それは如何いう事ですか?」
「こういう事ですよ」
椅子から立ち上がった慧卓は宿屋の入り口に足を運び、コーデリアに向かって手招きをする。そしてその戸を開け放ち、彼女に外の光景を見せた。コーデリアは其処に広がる、活気に溢れた大通りと喜びに満ちた人々の表情を見て、驚きに声を漏らす。
「これは、まぁっ!!!」
「王女様を歓待申し上げたいと街の皆が集い、兵達も商人も一致団結して開かれた大祭事で
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