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王道を走れば:幻想にて
第二章、その3:御勉強です、確りなさい
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ている。国を憂える状況になれば、自然と沸騰マシンになるようだ。議論に向かない性格である。

「今でも奴らは教会の権威を振り翳して帝国の臣民を蹂躙しているのだ。仮にも敵国民である王国臣民ですら知っている話だぞ...『セラム』の歴史に、奴らは泥を塗りたくっている...!」
「アリッサさん、熱くなり過ぎですよ。...あっ、これお茶です」
「あ、あぁ、すまん」

 丁度良いタイミングで最後の一滴まで茶が注ぎ終わった。慧卓が差し出したソーサー付カップを受け取り、アリッサは口調の熱を冷ますように茶を啜る。ちなみに中に入っているのは、夕暮れのような色に澄み渡った香りの高い紅茶である。
 ほっと一息吐いた彼女は、先程までの熱を零して幾分か落ち着いているように見えた。慧卓がここぞとばかりに話をまとめにかかる。

「何はともあれ、纏めるとこうなりますね?『大陸の歴史は政治と宗教の対立と発展、そして腐敗の歴史である。それは、王国と帝国に別れた現在であっても通じる事だ』、合ってます?」
「...私の感情的な話で良く其処まで理解出来たな...」
「いえいえ、アリッサさんの話が理路整然としていてとても理解しやすかったから、俺も纏めやすかったです。アリッサさんって、もしかしたら子供育てるの上手かも」
「なっ、何故其処に辿り着くのだ!?」
「俺の勝手な考えなんですが、子供に向かってちゃんと何が駄目で何が良いかを、理由をつけて説明出来る親というのが、俺の中では理想の親ですから」

 何処か昔の記憶を懐かしむような優しい目付きを彼は浮かべ、ソーサーを受け皿に静かに紅茶を嚥下した。アリッサは僅かに弾んだ胸の鼓動を押さえつつ言う。

「...時折お前はとんでもない事を言う。正直な所、いまいちお前の事が理解できん」
「じゃぁゆっくり時間を掛けて理解して下さい。俺もアリッサさんの事、もっと良く知りたいですから」
「...そっ、そうだな。相互理解は確かに大切だ。改めて、よろしく頼むぞ、ケイタク殿」
「言われなくても!よろしくお願いします、アリッサさん」

 なんとなしにペースを握られ続けるアリッサ。普段の彼女であれば男相手にこのような失態を受け続けるのは、正直悔やみの一つでも浮かべて当然であった。

(...なぜだろうな。悪くはない気持ちだ...)

 だが異界の者独特の雰囲気故であろうか、慧卓の飄々とした会話の為であろうか。それとも、彼女の胸の奥でどきりとなった、名も知らぬ感情の為か。アリッサは不満も不平も抱く事無く、慧卓に朗らかな微笑を浮かべていた。
 慧卓がふと窓を見遣り、アリッサも視線を向かわせる。窓をぽつぽつと叩いていた雨音は何時の間にか止んでいた。慧卓を窓をそっと開けて空そ見上げる。厚底の雲間から深海を思わせる深い青の空が覗いていた。

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