第二章、その2:雨雨、合掌
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を、覚えて下さい」
「......はい、心に刻みます」
慧卓の重い言葉を受けてコーデリアはゆっくりと頷き、アリッサに視線を合わせた。
「行軍を早めましょう、アリッサ。雨が強くなるのもそうですが、遠くでは既に雷が落ち始めています。早いうちに近隣の街に入らなければ、兵士らが危険です」
「殿下、商人等の亡骸は如何します?せめて街に運ぶだけでも」
「...残念ですが、原型を留めず、そして獣に貪られた死骸を歓迎する者は、街には居ないでしょう。それに顔が分からぬ以上、その亡骸を御家族の下に運ぶ事も適いません。申し訳ありませんが...」
「...そうですか。ではせめて神官殿に祈りを捧げいただくよう、頼みに行って参ります」
「待って下さい、アリッサさん。せめて彼らに墓を作っては如何ですか?」
馬に鞭を打ちかけたアリッサは逡巡し、頸を横に振って答える。
「...時の猶予が無い。この一帯は暗くなれば魔獣が出没する非常に危険な地帯。墓を作っては腐臭で彼らを惹きつけて、兵達を危険に晒してしまう。...残念だが...」
アリッサの言葉に抗する言葉も見つからず、慧卓は無念を覚えるように項垂れる。曇天から吹き付ける雨粒が彼の顔を叩き、ざぁざぁと雨粒のドラムが鼓膜を響かせる。
目の前に己の死を晒した者は、敵味方問わずしてなるべく救ってやりたいというのが慧卓の本音であった。ゲーム内でもそうだ。キャラクターそれぞれにデータ上で死を予定されているだけに、せめてその最期は華々しく飾ってあげたい。そういう独自の哲学を持って、彼は無意識にキャラの行動を左右していた。結果の良し悪しとを問わず、ドラマチックにキャラクターが動いていく様子は彼の心をわくわくとさせるものであった。その心をこの世界、『セラム』でも通して行きたい。そういう思いを抱いていた。
だが目の前の現実は最早動かしようが無い。与り知らぬ所で朽ち果てた人の死体を自分達が偶々発見し、そして偶々それを運んだり葬るための余裕が無いだけ。己の小さな哲学と相反する現実に慧卓は悔しさを覚え、それを言葉に変えて吐き出す。
「......でも、やっぱり野晒しは可哀相ですよ...彼らだってきっと、最期は誰かに看取られて安らかに眠りたかったんです。...王女様、貴女の言葉の通りですよ!彼らだって最期まで必死に努力したんです...生き残って、生を謳歌する為に。獣に食われるためにこんな所で死んだんじゃない筈なんです。見過ごしておくなんて...」
「.........アリッサ」
「はっ」
「『蒼櫃(そうひつ)の秘薬』を使います。良いですね?」
「っ...承知いたしました。ではこれを...」
アリッサは馬上よりコーデリアに向かって一つの布袋を手渡す。掌に収まるほどの小さな袋をコーデリアは確りと握り
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