第一章、その6:血潮、ハゲタカの眼下に薫る
[4/11]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
カルタスが熊美に言う。
「聞き届けてくれて感謝する、羆殿」
「気にするな。私とて、久方ぶりに強敵と相対して胸を躍らせておったのでな。願ってもない申し出ゆえ、受けたまでよ」
「...此方とて感激しておる。子供の頃より音に聞いた、『豪刃の羆』と死合う夢想が叶うとはな。世は本当に、面白いものだ」
互いに一つ、勇壮な微笑を零す。二人は武器を下ろして数歩距離を取り合うと、場に居るもの全てに聞こえるように、堂々たる名乗りを挙げた。
「マイン王国黒衛騎士団、『豪刃の羆』、クマミ=ヤガシラ」
「鉄斧山賊団、カルタス=ジ=アックス」
両名ともに隆々たる肉体を見せびらかすように身体を広げ、赤く輝く得物を構えた。大地を駆る風音以外の雑音が消え失せる。熊美の大剣が切っ先を天へと伸ばす上段の構えをし、カルタスの斧槍が穂先を下ろす下段の構えを取る。互いの瞳を見据える。一分の油断もない戦意に満ちた瞳だ。胸の内に興奮が宿り、血潮の流れを意識させる。口の中が緊張に乾くが、それが逆に心地良いとばかりにカルタスは静かに息を吐いた。木壁に腰を下ろす慧卓も身を乗り出して真剣にその様子を見詰めていた。
其の時、鋭く風が靡き、睨み合う両名の間を駆け抜けた。
『尋常に参る』
『勝負っ!!!』
疾風の如く二人は詰め寄る。先に得物を繰り出したのは速さに勝るカルタスだ。下段に下ろした斧槍を勢いのままに刺突する。
「しぇぇぁぁっ!!」
唸りを上げた穂先を剣を翳して受け流し、膂力を以って熊美は剣を斜めに振り落とす。風を切り裂くその素早き一振りをカルタスは地面に這うように身を屈めて避けて、振り向き様に幾度も斧槍を刺突させる。熊美は剣を立て続けに横に振ってこれを振り払い、様子を窺うように後退していく。カルタスはそれを追尾して槍を突き出し、執拗に鮮血の漏出を狙う。両者の足元で弱く砂塵が巻き上げられた。
熊美が右に左に剣を振り、上に下に剣を翳して刺突を払いのける。単直な攻撃故に繰り出す速さに勝り、且つ一撃一撃が鋭利であるがために、一度の負傷で想像以上の出血が危惧される。それを狙ってであろう、カルタスは斧槍の刺突に交えて突起や刃を用いた払いを繰り出してくる。突起で肩を引っ掛けるように槍を引き戻し、頸を裁断せんと刃が振るわれる。膂力に支えられたその一振りが熊美の肌を捉えんと唸りを伴って宙を裂く。
而して熊美は冷静さを保ち、その一撃一撃全てを剣にて弾き、身を竦めてこれを避けた。三十年の年月を経て尚鋭敏な感覚が身体を支配し、カルタスの攻撃の先読みを容易とさせていた。
「ちぃっ!」
一向に攻撃が決まらぬ事に舌打ちし、カルタスは攻め手をより熾烈とさせた。攻め手の最中に一気に槍を体躯の後ろへと引き戻し、足を進めて身体を回し、反対側の脇下から
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ