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王道を走れば:幻想にて
第一章、その5:門の正しい壊し方
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発叩き込めば、勢いと己の体重のままに一気に階段を駆け抜けて行きそうだ。

「ぜぇ、へぇ、はぁっ......ははは...」

 肩を荒く上下させながら慧卓は小さく笑みを零した。汗まみれの顔を順風が撫で、熱の心地良さを意識させる。これからやる事は、いわば慧卓からこの世界への挨拶というもの。ならば景気良く、思いっきりやらなねばならない。
 慧卓は松明を手榴弾の上に掛かった服に投げ込む。引火した服がばちばちと炎を巻き上げ、それを燃焼材として手榴弾の導火線が火花を散らし始めた。その炎の中に、慧卓は手招きをするおぼろげな手付きを垣間見る。それはきっと、この世界の神の手なのであろう。慧卓を死地へと招く、死を司る神の手だ。

「ハロー、死神っ!」

 その手を嘲笑うように慧卓が荷車に本気の蹴りを叩き込んだ。荷車が僅かに身を乗り出し、そして大地に惹かれる様に階段の上を転がり始めていった。車輪ががたがたと悲鳴を上げ、其の度に荷車を包み始める炎が揺れる。導火線の半ばより炎が飛び移り、その寿命を一気に縮めた。
 ふと扉を押さえつけていた男達が不意に耳に飛び込んできた震動音に目を向けた。階段から転がり落ちるように灼熱の炎に包まれた荷車が自分達に向かって降りてくる。朧に揺れる炎の中に積まれていたのは、山賊達の秘密兵器、数多の手榴弾であった。男達は一瞬それが理解出来ずに硬直していたが、徐々に恐怖の表情を浮かべていく。

『にっ、逃げろおおおおお!!!』
『うわあああああっっっ!?!?』

 一人の声を皮切りに男達が蜂の子を散らすように四散する。その悲鳴に疑問符を浮かべ、兵達が攻勢の手を止めた。慧卓は門から逃げるように全力で木壁の上を走っていく。
 荷車が階段から降り立ち門前へと差し掛かった瞬間、天地を轟かせるような轟音と爆炎が発せられ、砦の門を文字通り木っ端微塵に吹き飛ばした。黒煙を背に受けながら幾多大小の木屑が空を舞い、ひゅんひゅんと鉄片が空間を薙いで行く音が響いた。爆発の勢いはそれに留まらず、大きな衝撃波を伴って大地を駆け抜け、広場に居た者達は顔を庇うように腕を翳す。ばたばたと風に髪が揺らされ、頬を風が叩いていく。逃げ切れぬ者達が爆発の暴風に巻き込まれ、泳ぐように手をばたつかせて空を泳いだ。
 黒煙が晴れていくと、門があった場所の惨状が明らかになる。まるで抉られたかのように門が姿を消し、残った木屑が炭のように黒焦げとなっている。地面もまた爆発により窪んでおり、爆心地はが炎に舐められて黒ずんでいた。空を舞っていた木屑が大地へと降り注ぎ、からからと妙に小気味良い音を立てていた。
 慧卓は爆発に合わせてその場に伏せて頭部を守るように両手を組む。空に舞っていた木屑がぽろぽろと落下していき、大地へと降り注いでいく。腕の合間からその様子を見ていた慧卓はふと思う
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