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王道を走れば:幻想にて
第一章、その5:門の正しい壊し方
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使用されていなかったのか刀身の穢れは些細なものであり、それでいて手入れだけはされていたのであろう、刀身に錆一つ、刃毀れ一つ現れていない。まるで血に塗れる事を今か今かと待ち構え焦れているように、太陽の煌きを受けて鈍く反射している。常人ならば持つだけで精一杯、否、振り上げる事すら一介の力自慢でも不可能であろう。而して其処は伝説と呼ばれ畏怖された羆。その体躯に相応しき尋常ならざる怪力を以ってして、握ったその瞬間から巨剣を玩具の如く容易く操っていた。当に、天賦の才能と弛み無き努力の結晶である。

「うん、軽いから振りやすいわね...どうしたの?」
「...いや、己の見識と世界の摂理との格差の大きさに、改めて閉口していただけです」
「口開いてたけど」

 だからといって軽いは無いだろう。私の血の滲む様な鍛錬はなんだったのだ。無性に敗北感が込み上げてアリッサは力無く愚痴を零す。
 ドンッ、ドンッ、と扉を強く叩く音が二人の意識を奪う。部屋の外より響く男の声は無くなったが、返事が無い事に痺れを切らしたのか、扉を無理に開けようとしていた。早々に破られる事は無いが、それでも覚悟を決めなければならない。
 熊美は倒れた男から鍵を奪い取ると、扉の錠に鍵を差し込む。これを捻れば錠が外れ、扉が開く。即ち、実力行使の脱走劇の始まりだ。両者は瞳を合わせ、互いの戦意を確かめる。

「準備は良い、近衛騎士さん?死者の念に囚われてはいないでしょうね?」
「死骸には、私、用は無いので。我が愛しの乙女が、待っているので」
「...良い覚悟だ」

 戸を揺らされる音が更に激しくなる。二人は顔を見合わせて一つ、確りと頷き合う。アリッサの剣の切っ先が扉の先に居る男の頸下を狙いに定める。息を零し、胸の内に宿る緊張を瑞々しく高めていく。

「往くぞ!!」「応っ!!」

 熊美の声と共に錠が外され、扉が開く。たたらを踏むように部屋へと入ってきた男が驚きの表情を浮かべ、瞬間、その剥き出しの喉首にアリッサの剣が深々と突き刺さった。




「なんだ...これ...」

 一方で晴れて砦より屋外へと出でた慧卓。彼は長い通路を経て砦の二階部分、木壁の上へと姿を現し、底で周囲の状況の急激な変化に戸惑いと驚きを隠せず、呆けた表情をしながら周囲を窺っていた。
 砦の外側より矢が弧を描きながら飛び込み、鏃をきらりと光らせて落下していく。それに刺さり死に至る者こそ居ないが、身体の肉を抉られて悲鳴を漏らし、鮮血をぼたぼたと地面に撒くものは居た。反撃せんとばかりに木壁に隠れながら山賊達が矢を次々に射っているようだが、彼らが放つ以上に放たれる矢の雨には耐えられず、反撃の矢も疎らとなっている。そして砦の門は外側より破城槌による突撃を幾度も幾度も受けて、その度に大きく軋む音が響き渡る。

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