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王道を走れば:幻想にて
第一章、その3:オカマっていうな
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立ててタブレットに亀裂が走り、グラスが割れて草むらに毀れる。
 その破壊が契機となって脳波を操る電波が途絶え、虚ろな無意識から三沢が覚醒する。彼女は目をぱちくりとしてゆっくりと起き上がった。

「・・・ん、あれ、なんか冷たい・・・。あっ、けいくん、何してるの?一緒に遊んでたっけ?」
「起きたか!立て、走るぞ!」
「ほえ?でも店員さんがトリュフをまだ持ってきてないよ」
「そう言っていられるか!!」

 覚醒した直後の彼女のひんやりととした手を握り締め、慧卓は住宅街の中を疾走していく。元来た道を戻るだけであり、迷う事は無い。

「此処何処?中心街なのに知らない風景」
「なんだよ、分かってないのか?勤木市の住宅街だよ。・・・本当に覚えていないのか?」
「えっとぉ・・・あ、そうだ。ビリヤードの途中でお手洗い行こうとしてたんだっけ・・・あれ、其処からどうしたんだろ?」
「・・・あくどい奴らだ」

 大方、手洗いに行く最中の彼女をかどわかしたという事なのだろう。慧卓は不快な思いを更に募らせた。
 乾いた地面を駆け抜ける音が静謐の住宅街の中を反響していく。横を通過していく街灯から放たれる夜光が二人の姿を明るくしては、ぱちぱちと音を立てて点滅する。もうこの近辺では、虫の軽やかな囀りすら聞こえなくなっていた。
 やがて二人の目の前に燦燦としたネオンの光が現れていく。夜遅くとなっても色めきあう、歓楽街の光景だ。細道から抜け出て大通りの人混みに混ざるその一歩手前で、二人は足を止めた。

「うっし、もう安全だ!」
「おぉー、向こうはスクランブル交差点じゃないか。結構地理に詳しいんだね、けいくん」
「まぁ、そうだな」

 BARからの帰りに寄り道をして、近辺の地理には割と詳しいとは口が裂けても言えない。掛け持ちバイトを自ら露呈するほど自分が愚かだとは認めたくは無い。
 慧卓は三沢のくりっとした目を見詰めていう。

「じゃぁ、お前は猪村に電話を入れてから帰っておけ。あいつ、友達と一緒にお前の事を探し回っているからさ」
「あ、そうなんだ・・・迷惑掛けちゃったな、直ぐに電話しないと。今日はなんかありがとね、けいくん!また明日ねー!」
「あぁ、また学校でな」

 朗らかに手を振って大通りを歩いていく彼女の背を見送り、慧卓は深く安堵の息を吐いた。 

「さってと・・・帰るかぁ」
「そりゃねぇよ、兄ちゃん」

 背後から走る厭味な声に背筋が凍り、瞬間、脳に異常なまでの気だるさを覚え、気色の悪い電光が身体の内を走っていく感覚に襲われる。脳波を移行した際の独特の体感である。

『着いて来い。きりきり歩けよ』

 ぐらぐらと揺れた意識内で慧卓は何の疑問を持つ事無く、それでも幾分かしっかりとした足取りで細道へと姿を消した。

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