6 「Siren」
[9/16]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
解しないまま、凪はただ、疑問に思った。理由は無い。ただ、“そこにあるべきモノが無いのだ”と、本能で察していた。
渦巻くようにして咲きほころぶ花々。
暗闇の中そこだけ日溜まりのようにぼんやりと白く光り、凪は吸い寄せられるようにしてそちらに手を向ける。
そして、芽吹いたばかりの小さな<花>に手を触れようとしたとき、やっと気づくのだ。
果てしなく黒に近い藍色の世界。海だったはずの水は、《花》の光に当てられて紅く染まっていた。
(ッ! 血!?)
ゴポ...ッ
不意に血の海が明るく照らされる。
水面は見えない。海底も見えない。
境界無き無限の世界。正の無限はやがて負の無限から回帰する。輪廻螺旋の渦の中。
リーン...リーン......
リーン...リーン......
煉獄のようにただ中途半端にゆらゆらと揺れる凪の体の周りは、むせ返るほどの《花》の香りに包まれていた。
リーン...リーン......
耳を塞げど頭に響く硬質な音は、得も言われぬような緊張と不気味さを併せ持つ。
《ソレ》は次々花開く。血の海の水を吸い上げては見る間に成長し、芳香と共に光を放つ。
されど、いくら血を啜ろうとも、白い《ソレ》が紅く染まることは決してなかった。
狼狽えた凪が身じろぎ、花びらに腕を掠る。と、二の腕に痺れが走った。身の内から何かが流れ出る感覚。
(―――うわぁ!)
《花》が、凪の左腕に繚乱した。
振り払おうとした右手のひらもまた、見えない刃に斬り裂かれ、血に塗れた端から《花》が咲く。
(違う。見えない刃じゃない!)
《花》だ。
リーン...リーン......
血を喰らうその花びらは、水晶のようにきよらかで、美しく―――冷たく、鋭利であった。
いつしか凪の左眼も共鳴するように紅く放光する。同時に、凪の頭に“意識”が流れ込んできた。
リーン...リーン......
マダダ。マダ、足リナイ―――
リーン...リーン......
リーン...リーン......
モット、モット、血ヲ―――
皮が内から引きちぎれる。
今更気づいた。海底に引きずり込む見えない鎖と思ったものは、この<花>の蔓だったのだ。
腕を伝い這うようにして咲く《花》たちは、首へと伝い、鎖骨、胸、そして……
リーン...
ブチッ
(ッ!!)
心臓を喰い破った《ソレ》は、ひときわ美しい、大輪の《親花》を咲かせた。
(うあ、あ、あああああああ!!!!)
侵蝕をやめない《花》は、眼窩をも苗床とする。
ブチリ...
最後の《花》が、紅く光っていた左眼を喰った。
暗転する視界。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ