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Monster Hunter ―残影の竜騎士―
6 「Siren」
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解しないまま、凪はただ、疑問に思った。理由は無い。ただ、“そこにあるべきモノが無いのだ”と、本能で察していた。
 渦巻くようにして咲きほころぶ花々。
 暗闇の中そこだけ日溜まりのようにぼんやりと白く光り、凪は吸い寄せられるようにしてそちらに手を向ける。
 そして、芽吹いたばかりの小さな<花>に手を触れようとしたとき、やっと気づくのだ。
 果てしなく黒に近い藍色の世界。海だったはずの水は、《花》の光に当てられて紅く(・・)染まっていた。

(ッ! 血!?)

ゴポ...ッ

 不意に血の海が明るく照らされる。
 水面は見えない。海底も見えない。
 境界無き無限の世界。正の無限はやがて負の無限から回帰する。輪廻螺旋の渦の中。

リーン...リーン......
リーン...リーン......

 煉獄のようにただ中途半端にゆらゆらと揺れる凪の体の周りは、むせ返るほどの《花》の香りに包まれていた。

リーン...リーン......

耳を塞げど頭に響く硬質な音は、得も言われぬような緊張と不気味さを併せ持つ。
 《ソレ》は次々花開く。血の海の水を吸い上げては見る間に成長し、芳香と共に光を放つ。
 されど、いくら血を啜ろうとも、白い《ソレ》が紅く染まることは決してなかった。
 狼狽えた凪が身じろぎ、花びらに腕を掠る。と、二の腕に痺れが走った。身の内から何かが流れ出る感覚。

(―――うわぁ!)

 《花》が、凪の左腕に繚乱した。
 振り払おうとした右手のひらもまた、見えない刃に斬り裂かれ、血に塗れた端から《花》が咲く。

(違う。見えない刃じゃない!)

 《花》だ。

リーン...リーン......

 血を喰らうその花びらは、水晶(クリスタル)のようにきよらかで、美しく―――冷たく、鋭利であった。
 いつしか凪の左眼も共鳴するように紅く放光する。同時に、凪の頭に“意識”が流れ込んできた。

リーン...リーン......
  マダダ。マダ、足リナイ―――

リーン...リーン......
リーン...リーン......
  モット、モット、血ヲ―――

 皮が内から引きちぎれる。
 今更気づいた。海底に引きずり込む見えない鎖と思ったものは、この<花>の蔓だったのだ。
 腕を伝い這うようにして咲く《花》たちは、首へと伝い、鎖骨、胸、そして……

リーン...

ブチッ

(ッ!!)

 心臓を喰い破った《ソレ》は、ひときわ美しい、大輪の《親花》を咲かせた。

(うあ、あ、あああああああ!!!!)

 侵蝕をやめない《花》は、眼窩をも苗床とする。

ブチリ...

 最後の《花》が、紅く光っていた左眼を喰った。
 暗転する視界。

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