6 「Siren」
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「………はぁ…」」
「へ? へ? 何言ってんの?」
「どうしてそう……気の抜けるこというかなぁ、みー…、……一騎豆腐…とか……ぷぷぷ」
「どこをどう聞き間違えりゃあ“殲滅”が食い物になるんだか。食い意地張ってんにも程があんだろ……くくく」
「「わははははははは!!」」
ぴりぴりしていたベースキャンプの空気が、和らいだ。
汀のおかげで一度冷静になった2人は、しかし互いの主張は変えない。真面目な顔に戻った岬が、座ってもなお自身より頭1つ大きい菖蒲の顔を見据える。そんな少年の眼差しを菖蒲も正面から受け止めた。その顔に普段のからかうような態度は無い。
「言い過ぎました……すみません」
「ああ、分かってる。こっちこそ悪かった、感情的になって。大人気ねぇな」
「……本当に、帰るつもりなんですか。おじさん」
「それが、あいつとの約束だからな」
「……僕に、もっと力があれば」
ひどく不満そうに、何より悔しそうに、岬は自分の手のひらを見た。同年代の子供に比べれば明らかに固い、されど小さな子供の手。何回も肉刺を作り、潰れては癒える前にまた違う箇所にいくつも作って、を繰り返した少年の手のひらの皮は、いつしか厚く、固くなっていた。
―――それは、小さいながらも立派なハンターの手だった。
「馬鹿言え、お前はまだ成人すらしてねえガキなんだ。ガキはガキらしく年長者に守られてろ。……それを言うなら、俺の方だ。俺が付いてきてなかったら……お前ら2人だけだったら、あいつも伴って一緒に帰ってこれてたのかもしれねえのにッ……!」
並んで腰かけた固いベッドの上、岬の隣でミトンを外し開かれた手のひらには、肉刺の痕などない。だが岬は知っている。この繊細な手が、岬には想像もつかないほど器用な動きをして何人もの命を助けてきたということ。
―――それは、命を守る医者の手だった。
寝転がった菖蒲は、梁についている黒い滲みの数をなんともなしに数えていた。
「……僕たちにも、何か、できることは無いでしょうか…」
「あったら、んなとこでうだうだ考えてなんざいねぇよ。人間相手の喧嘩ならまだしも、飛竜―――それも、3頭も4頭も相手にしてたら、俺たちゃ命がいくつあっても足りねえ。戦えねぇんだ、邪魔になって足を引っ張るよりかはここにいた方がまだマシだろ」
言葉の節々がついついぶっきらぼうになるのは、そう言うしかない菖蒲自身自分の不甲斐無さにどうしようもなく苛立っているからであるということを、それこそ生まれてから毎日彼の顔を見てきた岬であるから、よく理解していた。
「僕たちは、弱い……」
「ああ、弱い。自分よりひとまわりも年下のクソガキに命救ってもらうくらいには、どうしようもなく、兄貴としてクズだ。畜生」
「僕たちは
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