6 「Siren」
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、不意に視界がぼやけ、切っ先が僅かにぶれた。
リーン...
「またッ……! こんなときに…っ!!」
ギャアアアア!!!!
脳裏に響く開花の音は、凪の左眼球を炙るように熱した。激痛に悶え苦しむ暇もなく、よろけた凪の握る剣先は狙いをそらして竜を穿つ。
なんとかその背に着地はできたものの、思わず片手で左眼を覆ってしまったのは、もはや反射だ。
しかし凪はすぐ過ちに気が付いた。
(何を馬鹿なことをッ! 戦闘中に自ら視界を閉ざすなんざっ)
ハッと頭を上げた時には、すでに視界の中に竜の尻尾が迫ってきていた。いや、頭か。混乱した頭では判別がつかない。
ただわかるのは、一刻も、一瞬でも早くこの場から降りねば、凪の躰は竜の餌食になるであろうことのみ。
(とにかく避け―――ッ!)
力を込めた足は毒怪竜の皮膚を台に、綺麗に弧を描いて攻撃を回避―――することはなかった。
バキッ!
「ぐ……ッ!!」
咄嗟に犠牲に差し出した左腕。笑えるほどにあっさりと、凪の下腕は折れ曲がった。その上衝撃に肩を脱臼。裂けた皮膚からは血が流れる。
ほとんど地面と平行に横に吹き飛ばされた凪は、それでも見事なバランス感覚で負傷した左半身を庇い、着地する。それは今までの凪の華麗な着地とは天と地の、雪煙を巻き起こす無様な痛々しいものではあったが、皮肉にもそれにより両者の間には20mほどの距離が開いた。飛竜とはいえ助走なしならばこの距離3秒は持つ。
その上都合のよいことに、吹っ飛んだ凪に向かってネブラたちは威嚇していた。まいったか、とでも言うように。奴らもだいぶ疲れが出てきたのか、口から落ちる涎の量はだんだん多くなってきているようだ。
今しかない。
ふっと息を詰めて、右腕で左上腕部を握りしめる。
ぎりっ...
音が鳴るほど強く歯を噛みしめる。過去に何度かやったことはあるが、たとえ百回やろうとも慣れない(むしろ慣れたくない)であろうこの行為を実行するには、凪をもってしても相当の覚悟が必要だった。
「はぁっ…があああッ!!」
がこんっ
脂汗を流しながら、歯軋りの合間にそれでも漏れ出た苦悶の声と共に、肩を嵌め入れる。綺麗にはまった。筋は痛めていないだろう、おそらく。
まだ痺れた感覚の残る左腕は、そもそももう使い物にならない。ひゅんひゅんと右手で太刀を弄んだ凪は左腕を垂らした状態で腰を沈め、再び駆け出した。一歩足を踏み出すごとに左腕に鋭い痛みが走るが、気にする暇も余裕もない。
闇に浮かび上がるようなギギネブラの白い姿態が、時折のぞく月明かりにぬらぬらと光沢を帯びる。体外に特殊な体液を常に分泌することで身の凍結を防ぐギギネブラの生態。先ほど攻撃を避けられなかったのは、これに足を滑らせて
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