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Monster Hunter ―残影の竜騎士―
6 「Siren」
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た。
 通常のハンターなら5秒と持たずに詰められる距離も、卓越した運動能力を持つ凪ならば、少なくともその倍の時間は同方向の徒競走であっても持たせられる。
 とはいえ、今は凪も疲労した身。自分でも舌打ちするほどに重い身体に、一挙手一投足がわずらわしく感じた。
 限界、と悟ったところで急転換。後ろを振り向く。もと戦っていた残体力の差か、2頭のギギネブラのうち1頭が凪に迫っていた。もう1頭は数メートルのみ間隔をあけて後ろから追いすがってきている。

―――その“数メートル”で十分。

 突進が当たる寸前、ギギネブラは大きく上体を持ち上げる傾向にある。それは上から叩き潰すようにすることで獲物を逃さないようにするためであろうが、今はその癖が凪に勝機を与えた。
 足を止めた凪に目を光らせた毒怪竜の首が僅かに動いた瞬間、凪はその翼の下を潜り抜ける。狙うは2頭目―――眼前を疾走する怒った兄弟竜で自慢の熱探知が狂わされている、体力の無い方の個体である。
 突如躍り出た凪にあからさまに驚いたネブラは前足を突っ張って急停止しようとするも、勢い付いていた竜の巨体が容易に止まれるはずもなく、凍土を抉りながら1頭目に体当たりを食らわせた。
 凪はひらりと横に回避、冷たい余波に長い前髪が揺れる。今したことの目的はあくまでこの2頭の勢いを削ぐこと、そしてリズムを壊すことである。凪お得意の怒涛の攻撃はここから火蓋を切った。

「はああ!!」

 裂帛の声とともに振り下ろした初撃。凍りつく大気を炎で以て斬り裂いたそれは、2頭目の側頭部に長い傷跡を残す。同時に飛んだ赤い飛沫は、血が乾燥して赤黒く変色した凪の着流しを再び鮮やかに染め上げた。
 間髪入れずに傷口をなぞるようにまた一閃。次、と刃を反転させたところで左から迫る1頭目の毒弾を察して後退、ただし置き土産ともう1撃同じ箇所に刀身を叩き込むのを忘れない。
 爆発した毒ガスから逃げるように左に飛びずさると、大きく踏み込んで1頭目の振り向きざまに毒腺を貫く。噴き出す毒液を旋回して避けて、回転した勢いのまま太刀を薙ぎ払うカウンターは1頭目が寸前で頭を引っ込めたことでその鼻先に横一文字の傷をつけるにとどまった。

「チッ」

 自分の太刀筋が甘くなっていることに気付いた凪が、思わずといった風に舌打ちする。
 振り抜きが甘かった。普段だったら避ける暇もなく刻む一撃が、たかが下位のギギネブラに避けられるほど遅くなるなんて。舌打ちは、自分の未熟さに対してだ。
 突然にバックジャンプしたネブラの翼をすんでで躱す、と同時に突進してきた2頭目を上に跳び上がることでやり過ごし、全体重をかけてその背に太刀を深く突き刺した。狙うは心臓。

―――時間が無い。一撃で仕留めるッ!

 背骨中心のやや左寄りを狙った一撃の瞬間
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