6 「Siren」
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、シュウシュウという音も凪の耳は拾った。
つい最近、聞いた覚えがある。これは……
(……そう、氷柱がネブラの翼を貫通させた時の音だ)
それすなわち、この分厚い氷壁が現在進行形で毒に溶解しているということ。
「チッ……なんだって、今っ」
疲労に気怠い身体に鞭打って、いつでも臨戦態勢を取れるよう氷壁から距離を置いた。
荒い息のまま、瞳だけは鋭く前方を睨み付ける。
あの夢を見ている間眠っていたはずなのに、体の疲れは全く取れていなかった。それどころか、むしろ疲弊度が増している気がする。
ピシッ...
白い氷にひびが入った。すでに氷塊の隙間からは幾筋もの白煙が立ち上っている。目を細めて氷を見つめ、待つこと数分。
ふと、世界が暗くなった。
思わず空を見上げる。曇天の雲は淡灰から濃灰へと色を変え、白だった雪の壁は青い影を落とした。
―――日暮れだ。
間もなく凍土のもっとも恐ろしい時間帯、夜が訪れる。
そうして意識を一瞬他へと散らした、その一瞬を待っていたかのように毒怪竜ギギネブラが熱い氷塊を突き破ってきた。同胞の血をまとった体表は、黒い。怒り状態だ。
「……そうか」
毒液は、水よりも凝固点がずっと低い。正確にいくつかなど凪の知るところではないが、それくらいならば容易に想像がついた。
ギギネブラは身体中に張り巡らされた毒腺に流れる毒液を目一杯高速に、かつ大量に流し体温を上げることで、この零下の地帯での活動を可能にしている。そして、全身にある人間でいうところの汗腺のような小さな穴から毒液の一部、主に粘液質で毒性物質を含まないものを常に流し続けることで皮膚の乾燥と体熱の放散を防いでいるのだ。
崩落した永久凍土の天盤の重みと、大小様々の氷の槍を受けなお生き残ったこの2頭のギギネブラは、息絶えた仲間の肉を喰らい体温を上げ、死して尚毒性を失わない毒液を周りの氷にぶちまけることで、少しずつ氷を融解させていったのだった。
「それじゃあ、第二ラウンドと行きますか!」
自分を鼓舞する意味も含め、ことさら大きな声をあげた。疲労を訴える足を踏みしめ、腰を落とす。
ザリ...
ふわふわとした雪はいつしか小さく固い氷の粒となって風に乗り、横殴りに凪の頬を叩きつけた。
ギエアアアアア!!!!
初っ端から全力のギギネブラ。生態系の頂点に立つ竜にここまで傷を負わせた凪を、完全に自分と同格の敵であると認定した。
大気も震えるような絶叫と共に、2頭同時の突進攻撃。
真正面からではなくやや角度をつけた双方向からの突進は、思いのほか死角が少ない。一瞬目を細めて辺りの空間を把握した凪は、そのまま真後ろ―――ネブラたちの突進の延長線をなぞるように駆け
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