6 「Siren」
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るべき存在が、雪路が、心配する。生まれたばかりの汀と岬も、心配する。
(ぼくは、守らなくちゃいけない)
妹を、弟を。真砂さんを、菖蒲兄を。
その為の“力”なんだから。ぼくが、守らなくちゃいけないんだ。不安にしちゃ、いけないんだ。
だから、だれにも弱さは見せない。だれにも縋らない。
ぼくは、大丈夫だから。すぐ、帰るから。泣かないで、ゆきじ。ぼくは、大丈夫だよ。
―――帰るって、何処に?
ポッケ村だよ。ぼくを、待っていてくれる人がいる、村。
―――誰が、俺を待っていてくれるって? 体よく俺を殺そうとしている大人たちが、ひしめく村で?
でも、守らなくちゃいけないから。ぼくを心配してくれてる人は、確かにいるから。
―――……じゃあ、だれが、俺を守ってくれるの?
震えながら立ち上がった。
虚ろなブランゴの暗い瞳が、青白い凪の顔を反射した。幼いこどもの、泣きそうな顔。でも、涙は出ない。出さない。吹雪の中、マフモフを装備の上から羽織った子供は、ただ、声帯を震わせずに唇を動かした。
(たすけないで)
どうか、たすけて。
(たすけないでったら)
だれか、ぼくを―――どうか、どうか、
愛して。
リーン......
「ッ!!」
甘い香りと共に、脳裏に再び<花>が咲いた。
身を凍らせる。瞬時に凪の纏う“時”は返った。頭をあげ、凪は自身の背に積み重なる氷塊、その奥を睨み付けた。無意識のうちに体を震わせるのは決して、寒さからではない。
ぐじゅ...ぐじゅ......
耳に届いた音に目を見開いた。それはこの7年間、渓流を歩くたび毎日といっていいほど聞き続けてきた音。自然の摂理。
弱肉強食の世、三大欲求が一、“食欲”を満たすため強者が弱者に向けて行う行為。すなわち、
“捕食”。
「生きていたのかッ……」
リーン...
――――ミツケタ。
ごくり...
徐々に氷が赤く透けていく。
ギギネブラは同族を捕食することで、この窮地から脱出しようとしていた。強者こそが生き残る。凍土の生存競争は、それが他のどの地方よりも露呈していた。
洞窟崩落の際、凪とギギネブラ達の間に空いていた距離は10m弱。その距離にまで血が浸透しているということは、少なくともあれから1頭はさらに死んだということで間違いはないだろう。
無意識に唾を嚥下しながら凪は考察した。
(あれかな……)
凪が脳を焼き切った竜。すでに瀕死ではあったし、その上であの氷塊の衝撃に耐えられるとは考え難い。
とすれば、残るは2頭。
太刀をひっつかんで氷の壁から距離を取る。捕食の音と同時に
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