第十二話 ベーネミュンデ侯爵夫人(その6)
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だ。伯爵夫人が失脚すれば侯爵夫人が寵姫として返り咲くとな。ベーネミュンデ侯爵夫人はそれを信じた。いや信じたかったのかもしれん、愚かな事よ……」
「……」
誰も何も言わない。黙ってリヒテンラーデ侯の言葉を聞いている。内心では皆侯と同じように愚かなと思っているのだろうか……。
「コルプト子爵にとってはベーネミュンデ侯爵夫人が復権するかどうかはどうでも良かった。彼にとって侯爵夫人はグリューネワルト伯爵夫人を失脚させる道具でしかなかった。伯爵夫人が姦通罪で処断されれば当然だがミューゼル大将もただでは済まぬ。コルプト子爵の狙いはそれだった」
皆が俺を見た。改めて自分が危うい立場に居た事が分かった。今回はブラウンシュバイク公がこちらの味方になってくれたから助かったがもし敵だったらどうなったか……。こちらの地位が高くなるにつれ敵も強力に、狡猾になっていく……。味方を作れと公に言われた事を思い出した。
「ミューゼル大将の庇護を失ったミッターマイヤー少将など殺すのは容易いとコルプト子爵は考えたのだ」
応接室にリヒテンラーデ侯の声だけが流れる。おおよその事は知っていた。噂が流れたし、こちらも出来る限り捜査状況を知ろうとした。ケスラーが憲兵隊に強いコネを持っていたのが役に立った。しかし、今こうして話を聞くと改めてそのおぞましさ、愚かしさに吐き気がする。そう思っているのは俺だけではあるまい、皆表情に嫌悪感が有る。
「コルプト子爵はベーネミュンデ侯爵夫人を愚かな女だと言っていたが子爵自身、愚かさでは侯爵夫人と変わらぬ。ブラウンシュバイク、リッテンハイム両家から断交されても子爵は復讐を諦めなかった。ヒルデスハイム伯達を利用して復讐をと考えたのだ。最後は彼らにも見捨てられ命の危険を感じて自首したが……」
リヒテンラーデ侯が顔を顰めている。なるほど、ヒルデスハイム伯達がブラスターをコルプト子爵の頭に突きつけたという噂は事実だったらしい。皆誰でも我が身が可愛い、道連れは御免というわけか……。
「今回の一件ではブラウンシュバイク公に感謝せねばならん。コルプト子爵だけでなくヒルデスハイム伯達からも調書を取ることが出来た。連中の首根っこを押さえたのだ。暫くは大人しくなるだろう」
皆が笑みを漏らす中、褒められたブラウンシュバイク公が口を開いた。
「リヒテンラーデ侯らしく有りませんね。連中がそんな殊勝な性格をしていると思うのですか? 首根っこを押さえられたどころかコルプト子爵を自首させたのは自分達だと言い張るでしょう」
「一本取られたな、リヒテンラーデ侯」
顔を顰めたリヒテンラーデ侯をブラウンシュバイク大公がからかった。リヒテンラーデ侯の顔がますます渋くなる。そんな侯を見て皆が笑った。ようやく笑う事が出来た。そう思ったのは俺だけではないはずだ。
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