番外編
その2 シリアルナンバー
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――だいぶ前に、妹に尋ねられたことがあった。
「ねえ。兄さんのアーマードライダーには名前がないの?」
久しぶりの休暇。自室で寛いでいた貴虎は、ベッドでコロコロする妹に問われて顔を上げた。
「名前とはどういう意味だ」
「んと――ビートライダーズ側には区別のために名前が付いたじゃない。鎧武、龍玄、バロン、黒影、グリドン。兄さんや戦極さんたちにはないの? アーマードライダーの名前」
――口にするには抵抗があった。凌馬が命名したそれはセンスが斜め23.5度傾いている。だが、妹に乞われて答えないわけにはいかなかった。
「――、斬月」
「ざんげつ?」
貴虎はデスクの上のペンを取り、メモ帳に字を書いてヘキサに差し出した。
「『斬』った『月』と書いて『斬月』。俺のシリアルナンバーだ。凌馬は『デューク』、シドは『シグルド』、湊は『マリカ』という」
「どういう意味?」
「全て凌馬の命名だ。意味は聞いてない」
サガラといい凌馬といい、奇矯なセンスの持ち主の考えることは貴虎には理解しがたい。ただしサガラが光実を「龍の息吹のよう」と評したことだけは、グッジョブ、と思わなくもない。
「だからといって直接凌馬に聞きにいくことはするな。どうしても知りたいなら俺が聞いてきてやる」
「は、はい、兄さん」
「よし」
貴虎は碧沙の頭を撫でた。凌馬には弟を預けているだけでも不愉快なのだ。この上、妹まで持って行かれたら堪らない。
「他に聞きたいことはあるか。あるなら今の内に教えろ」
「いいの?」
「ああ」
「えっと、えと……」
碧沙は真剣に悩み出す。貴虎はそんな妹の様子をつぶさに眺めて待った。碧沙のしぐさは小動物のようで、見ていて飽きないのだ。
そんな碧沙が、ふいに夢から覚めたように表情を消した。貴虎は訝しむ。
「碧沙?」
「ううん――やっぱり、聞かなくていい」
「いいのか?」
「貴兄さんが答えたくないことまで聞いちゃいそうで、ちょっとこわいから」
碧沙は苦笑した。この所よく見せるようになった、何もかもを諦めたような受け入れたような、達観した笑み。まだ11歳の少女が見せるにはふさわしくない表情は、いつも貴虎を悩ませた。
「ごめんなさい。せっかく聞いてくるって言ってくれたのに。あっ、別に兄さんのお仕事にキョウミがないとかそういうんじゃないの。ただわたしが上手く質問できないだけで」
「分かった。分かったから」
貴虎は碧沙の頭を再び撫でた。今度は髪を梳くように。碧沙が落ち着くまで何度も、何度も。
「ありがと――、貴兄さん」
碧沙は小首を傾げ、貴虎の掌に頬を預けて笑んだ。晴れやかな笑みだった。
だから貴虎も、少しだけ口の端を上げて返した。
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