魔王様の諦め癖。
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された。
少年は何も考えることができず、ただされるがままになっていた。
雪の冷たさが、真冬の寒さが肌に痛かった。
でも、時々肌を這い回る男の手と舌の生暖かさと比べれば冷たい方がましだった。
『君は助けを求めないんだね』
助けなんて諦めたのはとっくの昔だ。
――少年は生きることを――
(っ……諦めたくない……死にたくない、まだ、死にたくないっ)
(本当は何も諦めたくなかった。 愛して欲しかった。 助けて欲しかった。 本気で彼が好きだった)
(幸せになりたかった……!)
(――でも、望んだって現実は変わらないんだ)
(――……もう、いいや)
――少年は生きることを諦めた。
――――――
――――
――
ふと少年が目を覚ますと見知らぬ部屋にいた。
黒を基調とした見るからに豪華な部屋。 ただし、インテリアの趣味は最悪。
柔らかな布団に身を横たえたまま呆然としている少年の耳を聞きなれない声が打った。
「お目覚めになりましたか」
それは、酷く聞きとり辛い声であった。 その声の主へ視線を動かし、少年は目を見開く。
「おめでとうございます。 貴方様は選ばれました」
声の主は異形の者であった。
身体は確かに人間の物であるのに、首から上は動物の山羊そのものだ。
一瞬被り物かと思ったが、あまりにもリアル過ぎるそれが本物であることを主張していた。
「……何に、選ばれたんですか?」
やや投げやりに聞くと、山羊頭の男は目を細め少年をじっと見据える。
「私に敬語は不要でございます。 ――あなたは、異界の地よりこの地の『魔王』として選ばれました」
「魔王? というと、人類の敵で勇者に滅ぼされるアレ?」
山羊頭の男はフシューと息を吐き出した。
「人類の敵ではありますが、今から勇者に滅ぼされるなどと言う弱音を吐かれては困ります。 貴方様のお仕事は、薄汚い人類を滅ぼし魔族の楽園を創造すること。 その最大の障害が勇者です」
「へぇ。 なんだか大変そうだね。 俺、この世界のこと何も知らないんだけど」
他人事のように空っぽな笑みを浮かべた少年に、山羊頭の男は淡々と言葉を続けた。
「魔王様に出来ぬことは殆どございません。 全ての事象が魔王様の御心のままに―― 魔王様は不老にして不死。その身を傷つけることが出来るのは勇者のみ。 時間はたっぷりとございます」
「不老不死ね。 すごいな。 ……なぁ、お前は魔族で、俺はお前ら魔族って奴の王様なんだよな?」
「左様にございます」
「……頑張って人類滅ぼしたら、お前らは俺のこと愛してくれる?」
柔らかく笑みを浮かべた少年に、山羊頭の男は首を傾げた。
「――『アイ』
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