第一部 vs.まもの!
第14話 きょうふのいちや!
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鼻をすすりながら答えた。
「あたし達、殺されそうになって……その時……あの人、あたし達に……先に逃げろって……」
「……」
沈黙が痛みに変わる。ノエルが顔を覆う。パスカの目が大きく見開かれ、バリケードの向こうの光を集め反射しているのが、やけにはっきりと見えた。
「そうするしかなかった」
弁解しているみたいだった。そんな自分がほとほと嫌だった。それでもウェルドは言葉を繋ぐ。
「逃げるしかなかった、でなきゃ三人揃って死んでいた! そんな結果になったって、何にもならねえだろ!」
拳で床を叩く。狂ったような咆哮が外から聞こえてきた。全員が硬直し、あるいは身構えた。シャルンが槍を手に立ち上がる。ジェシカは片隅で膝を抱えているが、その手には短剣が光っている。
「……あたし達では勝てないわ」
「そんなの、やってみなきゃ――!」
「今度ばかりはやらなくてもわかるわよ! あなた、向こうの区画を見た? ひどいものだわ! あたし達より経験が豊富な筈の人たちが何人も何人も何人も!」
「騒ぎ過ぎじゃないかしら?」
イヴが言う。自室の戸にもたれかかる彼女は、今はワイングラスではなく、遺跡で拾った杖を手に持っている。魔装具だ。
「――あれは紫の剣よ」
ノエルは声を落とす。
「紫の剣……?」
「聖書に記述があるわ。肉体の永遠のみを求めた人間が作り出した狂気の剣。それに取りこまれた人間は魂を失い、獣のように変化するって。それだけじゃないわ。あの剣で斬られたら助からない。どんな小さなかすり傷でも、そこから徐々に腐り始めて、痺れて、動かなくなって……心臓が止まるの……」
シャルンは口許を押さえた。
「あなたは見た? あれを、あれの動きをその目で見たの? かすり傷一つ負わずにあれに勝てるような人が、あたし達の中にいると思う?」
誰も答えなかった。
誰も喋らぬまま、時間だけが過ぎる。皆、眠ってはいない。無言なだけだ。
「疲れちゃった」
ジェシカの声が落ちる。シャルンがもぞもぞと姿勢を変え、言った。
「ジェシカ、誰かのベッドを借りて休んだら? 今は外も静かだし、休むのも大事だよ」
「ヤだよ」
ジェシカは短剣を握り直す。
「寝たらあたしだけ逃げ遅れちゃうじゃん。そんなの御免だね」
「ジェシカ」
「嫌だよ。死ぬのは怖いよ……」
言葉が切れた。遠くではまだ戦いが続いているらしい。窓を覆うバリケードに近い、サラの悲しげな顔が火に照らされる。火事が近付いてきている。
「……あたしの友達にさ。天使のペンダントを大事にしてた子がいたんだ。あたしの住んでた裏通りにさ、貴族のお抱えの私兵どもが来た時にさ、ずっとこうやって膝抱えて、一緒に隠れてた」
「……その子はどうなったの?」
「殺されちゃった。せっかく摘発から逃げれた
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