暁 〜小説投稿サイト〜
打球は快音響かせて
高校2年
第二十話 これが本気だ
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ネット裏の席で、メモをとりながら試合を見ている浅海は、海洋ベンチで腕組みする高地監督を見て感心していた。

(こうやって揺さぶる過程で、盗塁死とか牽制死、ムダなアウトをやってしまう事もある。そのリスクを省みずに迷いなく攻められるのはさすが高地監督だ。一歩間違えばルンバ采配だよ。OBからのお小言も沢山頂戴する羽目になるだろうに。これが闘将たる所以だな。)

ただ、目の前で戦っているのは自分の教え子達。浅海も素直に感心してばかり居られない。

(ここが正念場だぞ。まだ4点差がある。一つ一つしっかりアウトをとっていくんだ。)




<4番ショート江藤君>

なおも続く無死二塁。打席には174cm77kg、豆タンク体型の海洋の4番打者・江藤良三が入る。
2年生だが、口の周りの無精髭が濃く、実にオッサン臭い見た目をしている。

「オラオラ打てよジジイ!」
「ジジイ!俺は打ったでー!」

海洋ベンチから川道をはじめ、チームメイトが煽り立てる。そのような声援(?)にも堂々と頷き、打席にドンとそびえる。
その重厚な構えを崩そうというのか、インハイに投げ込まれたストレートに若干のけぞるも、江藤は逆に鷹合を睨みつけて動じない。

(…ちょっと体の開き早くなったとか?)

初球を見て、江藤は鷹合のボールの変化に気づいた。少し自分の目線から見やすくなった。
先ほどよりも球の速さを感じない。

(自分のエラーで点やったけんな。多少力むのも当然か。そうなると、余計に球は走らんし…)

江藤に対して、ねじ伏せにかかるようなストレートが続く。江藤はボール球をしっかり見極め、そして甘めに入ってきた1球を的確に捉えた。

(その走らんストレートで勝負に来る!)
カーーーーン!!

甲高い金属バットの音、空高く舞い上がる白球。
放物線を描いた打球はレフトの頭上の遥か上を越え、フェンスの向こう側に着弾した。

呆然とマウンド上に佇む鷹合、お祭り騒ぎになる海洋応援席。その二つを見ながら、「海洋の4番」江藤はゆったりとダイヤモンドを一周する。

5-3。一気に2点差。
三龍の絶対的優位は、もう存在しない。






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