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或る皇国将校の回想録
第三部龍州戦役
第四十三話 独立混成第十四聯隊の初陣(上)
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に聯隊を使い潰すつもりは豊久にはさらさらない。ピュロスの勝利を誇るほど武勲に飢えておらず、むしろ数や火力の優位を徹底的に利用して叩き潰すのが豊久好みの勝利であった。
新進気鋭の聯隊長の探るような視線を受け止め、宿将は泰然とした笑みを浮かべて鷹揚に手を振りながら云った。
「そこは貴官の裁量のうちだ。儂が命じるのは、迂回している部隊が側背を突く事を防ぐことだけだ。だが、敵の貴重な騎兵部隊が主力であるのだから、できるだけ削る事も考えて貰いたい。残念ながら剣虎兵運用については詳しくないのでな。そちらの裁量は任せる」
 ――ようするに追い返すのが最低限、だが可能な限り叩けって事か。まぁ当然と言えば当然だな。
 自分に独自裁量があるだけでもよし、と豊久は頷いた。
「はい、閣下。それではそろそろ戦の準備に入らせていただきます」
「あぁ――今度は勝ってきたまえ」
 宿将は精気に満ちた笑みを浮かべ、かつて最後の敗残兵達の指揮官であった青年を送り出した。
「――はい、閣下」
豊久は司令官たちに敬礼を奉げ、軍司令部天幕を後にした。
 帰途についたと豊久は騎馬に揺られながら鬱々と思考を紡ぐ。
 ――もし胸甲騎兵だとしたら、俺を引っ捕えたあの連中だ。どこまで踏み込むべきか。
砲兵大隊と鉄虎大隊を基軸にして叩くべきだろうが、こちらが大損害を受けるわけにもいくまい、ならばどこまでリスクを冒すべきか――
とそこまで考えた時、自分が無意識に手綱を握り潰していた事に気づいた。
「・・・・・・ふぅ」
軽く自身の頬を叩き、気分を変える。
――まぁ、いい。それを考えるのは大辺達と考えよう。これは、独立混成第十四聯隊の初陣だ。命じられた以上は、三千九百もの将兵をを引きずり回し、不安を押し隠して減らず口を叩きながら戦うしかない。



同日 午前第九刻 主戦場より西方三里 独立混成第十四聯隊本部
聯隊長 馬堂豊久中佐


本部幕僚達は聯隊長の帰還とほぼ同時に作戦立案の為に稼働し、程なく聯隊長の満足いく形で策定が終了した。
「――敵は近衛総軍と交戦している第一旅団後方を迂回し、南下して第三軍主力の側面を突く動きをとると我々は予測している。我々はこれを撃滅し、第三軍主力の側背を護る事が我々の目標である。 この目標を達成するための聯隊長の構想を首席幕僚が説明する」
 年若い中佐は余裕を感じさせる口調で方針を発すると微笑を浮かべ、彼は集まった指揮官達を眺めた。
 聯隊鉄虎大隊を率いる棚沢少佐は、彼の部隊が率いる剣牙虎に似た獰猛な表情を浮かべている。 
第一大隊の長である囲関少佐は厚みのある顎を撫でながら秀才幕僚の説明に耳を傾け。第二大隊を率いる縦川少佐は考え込みながら視線を地図に向けている。
 聯隊砲兵大隊長の下山少佐もぶつぶつと何やら呟きながら地図を睨
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