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或る皇国将校の回想録
第三部龍州戦役
第四十三話 独立混成第十四聯隊の初陣(上)
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隊長はひらひらと手を振ると戦場音楽に耳を澄ませるかのように目を閉じた。



同日 午前第七刻 反撃発起線より後方五里 聯隊本部
独立混成第十四聯隊聯隊長 馬堂豊久中佐


「驚くほど順調だな、成程、西津閣下も噂にたがわぬ方であったようだ」
 機嫌よく扇子を煽ぎながら豊久は軽く笑みを浮かべている。
作戦開始から二刻、龍口湾における攻防戦の主導権はほぼ完全に<皇国>軍の掌中に転がり込んでいた。
特に大きな成果を上げたのが砲兵と銃兵による連携であった。防衛線を構築していた二個大隊はこの導術管制による効率的な火力集中と阿吽の呼吸で複数面から攻勢を仕掛けた銃兵隊によりあっけなく潰走してしまった。
そして、この敗走による混乱と相応の自由度を得た大隊単位で行軍する銃兵の追撃によって戦線を構築していた第21師団第2旅団は半数の戦力――1個聯隊相当を一時的に無力化され、第三軍の担当戦域は優勢を確保しつつあった。
「えぇ、しかしながら相手は<帝国>軍です。そろそろ向こうも殴り返してくるでしょうね」
 大辺の言に馬堂聯隊長も驚く様子もなく頷いた。
「あぁ、それは司令部も分かっているだろうな。こっちも2・3刻もしないで声がかかるかもしれん――米山」
副官に視線を送ると彼も頷いて返答をする
「今は可能な限り休ませていますが、そろそろ潮時でしょうな」

「ん、休憩に入る部隊の比率を減らしてくれ。そろそろ壁の花を気取る暇もなくなりそうだ」
 馬堂豊久聯隊長の予想は<帝国>軍へのある種の信頼感に基づいたものであり、それはほぼ現実に<帝国>軍が執った行動に完全に合致していた。彼らが相対していた第21師団第2旅団長のクラントニウスキィ准将は歴戦の将軍であり、無能の評とは無縁の男である。
無論、そうでなければ天性の作戦家にして生まれついて人を使う立場にあったユーリアが一万の兵を率いる猟兵旅団を預ける筈もない。彼は無傷の聯隊を前進させ、混乱の収拾を図りながらも迅速に師団司令部に応援の要請を送っていた。
「失礼します、聯隊長殿!」
本部付導術士の上砂少尉が若々しい声を上げて立ち上がった。
「おう、どこからだ?」
「第三軍司令部より連絡です、聯隊長殿は直ちに軍司令部天幕に出頭せよとの事です!」
 本部の空気が凍りつく、即ち導術越しではなく直接に軍司令部直々の命が下るという事だ。
「――やっぱりそうなったか。首席幕僚、本部はまかせる。
全部隊を即座に動かせるようにしておけ、米山は導術を一人見繕ったらついてこい」



同日 午前第七刻半 集成第三軍司令部
独立混成第十四聯隊 聯隊長 馬堂豊久


「司令官閣下。独立混成第十四聯隊・聯隊長出頭しました」
 大天幕が設置された司令部に通されると軍司令官である西津中将の厳めしい顔が出迎
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