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或る皇国将校の回想録
第三部龍州戦役
第四十三話 独立混成第十四聯隊の初陣(上)
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皇紀五百六十八年 七月十八日 午前第五刻 反撃発起線より後方五里 聯隊本部
独立混成第十四聯隊聯隊長 馬堂豊久中佐


 馬堂豊久中佐は茫洋と細巻を銜えながら払暁の訪れを惜しむかのように光帯を眺めていた。
「そろそろ――かな」
「はい、まもなくです」
 そばに控えている米山が頷くと、それに応えるかのように燐燭弾が次々と朱にそまりつつある夜空に灯りを燈した。
「そろそろ戻るか、一応耳をふさいでおけ」と云いながら耳をふさいだ聯隊長の言葉に従う間もなく、総計100門に届くのではないか、というほどの擲射砲群の斉射が行われた。
 数十の砲弾の軌跡が収束し、炸裂する。
「さて、上手く行けばいいのだが――」

<皇国>軍はけして単なる無能ではない、北領における敗戦から彼らは幾つも学ぶべきことを洗い出し、導入を行っていた。その中でも特に重宝されていたものとして二つがあげられる。
一つは中隊横列によって編成された大隊縦列による銃兵運用である。これは導術との相性の良さから即座にとりいれられており、少なくとも北領のような一方的な撃ち敗けをする事はなくなった――とはいえ練度の差は未だに埋める事は能わずといったところであったが。
そしてもう一つがこの作戦の軸でもある導術管制による大隊単位で分散された砲兵達による砲撃である。これは、砲兵の導術管制に関する研究論文を苗川陣地戦で実地した砲兵将校が発表した事で一気に実用化が進みつつある。
この第三軍の攻勢においても、ほぼ完全に大隊単位で銃兵部隊と協同し、防衛線に対して集中した砲撃が行われることになっている。
長年に渡る会戦状態を主として想定していた運用法に固執した天狼会戦からは考えられなかった事である。<皇国>軍もけして旧態依然としたものに固執するだけではないというのだ――とはいえ北領を放棄し、内地に敵の手が寄せている代償としてはあまりに厳しいものであるのだが。
             ――閑話休題――
「初動の状況は?」
 本部天幕に戻った聯隊長は早々に幕僚達に尋ねる
「はい、聯隊長殿。敵は此方の動向に気づいてはいなかったようです。導術連絡をいくらか傍受していましたが、ほぼ全域で奇襲は成功しているようです」

「大変結構 予備隊が出張ってくるまでは上手く行くだろうな。
それまで出番がないといいが……即応態勢は崩すなよ。兵の士気はどうだ?」

「はい、聯隊長殿。私が見てまいりましたが、兵站状況が良好であることが幸いしたのか、問題ありません」
 輜重将校でもある米山副官が短く頷いてこたえる。
「ならいい。今は準備を整えておいたら休ませといてやれ。当面は導術も休ませておこう。番の導術も連絡が来ないかぎりは本部内で茶でも飲ませてやれ。せいぜいダメ押しで呼ばれる事を祈っていようじゃないか」と聯
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