生命の木
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じさん、大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。酔いがひどくって。」
ズザンナは、緑川の部屋のいつもと違う臭気が気になった。そして、どこかで嗅いだにおいだとは思ったが、思い当たっていよいよ恥ずかしくなった。男の人もこんなにおいがするのだろうか。しかし、きっとごみか何かが偶然そうなっているのだろうとズザンナは判断した。
緑川は泥酔甚だしい様子だった。立っているのもやっとであるらしい。
「おじさん、あたしがお掃除してあげる。」
とズザンナは自分から上がり、緑川を支えた。大人の男の体の大きさをズザンナは肌で感じて、また赤くなった。緑川は、ズザンナに触れた喜びより安心が先に立って、意識が遠のいた。横になった緑川はすぐに寝息を立て始めた。
掃除機をかけ、ごみをまとめたズザンナが緑川を見ると、布団は跳ね上げられ、腹を出していた。暑いのかしらと思って行ってみた。しゃがんでズザンナが布団を直そうとしたとき、緑川が片脚を立て、ゆるいトランクスの付け根の口から、もはや力の抜けた男のものがこぼれ出た。見て、しまわなければと慌てたズザンナは、咄嗟に両手を出してそれを包んだまま、手が離せなくなった。そうしてむしろ全部包み込んだ。男子が呼んでいる通りのものを手のひらに感じ、指先に当たってくる重みと危なげなやわらかさとに驚いた。しばらくそのままでいたズザンナの心はなぜかしかし落ち着いてきた。そして自分が正しいことをしているように思われてきた。ズザンナは包んでいた両手を開き、そこへ恐れずに目を向けた。ズザンナは男の人を分かった気がした。それは見かけと違う弱いものだと思った。ズザンナは、両手に掬うように、そこへ心のこもった口づけをした。力の戻った緑川が、ズザンナには母親のように愛おしかった。
その晩、ベッドの中のズザンナは、自分が女であることを初めて体で意識し、知った。
日曜日、緑川は普通に目を覚ました。特になにも恐れていたことは起こらない。少し落ち着きを取り戻した緑川は、今から真面目に生きればいいと考えつつあった。その考えのまま、顔を洗ったあと少女の下着を嗅いだ。
九時半にはズザンナが教会に誘いに来るはずだった。それが、今日に限って来なかった。両親の出かけるらしい音と声とが聞こえたので、緑川は出て尋ねてみた。両親は、年頃ですからねと笑った。
Chu shi eble havas iun problemon?(もしかして何かあったんですか。)
緑川が母親にエスペラントで質問した。母のアンナは、エスペラントに堪能で、緑川も話せたから、日本語よりエスペラントが得意なアンナは、緑川とは好んでこの言葉を使っていた。引っ越してきたばかりの頃、ズザンナは、知らない言葉がいきなり母の口から流れ出たのに大層おどろいたものだ。
Ne, ne, tute ne! Shi estas
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