生命の木
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ヶ月の休職をすることになった緑川は、もう仕事を辞めることを考えていた。外出も少なく、暑い中、何もできずに緑川は苦しんだ。
世間では今週から学校が夏休みに入っていた。
隣のことがどう進んでいるのか、ズザンナの話からだけではよく分かりかねたが、うまく行っているとのズザンナの話を緑川は信じた。レナータとはしばらく会っていなかった。
ある日の午前中、呼び鈴が鳴った。聞いた声で、藤原麗那ですと子供がドア越しに呼んだ。緑川が開けてみるとそれはレナータだった。隣にズザンナも立っていた。
「おじさん、プールに行きましょう。泳ぐのなら大丈夫でしょ?」
とズザンナが言った。緑川は承知した。騒がしい大人の誘いなら断るところだったが、少女も水辺も恋しかった。
外は街並みがあざやかだった。ときどき涼しい風が強く吹いた。蝉が賑やかに鳴き、入道雲が輝いていた。緑川は世界のいのちを感じた。ズザンナから、バスの中で緑川は事の成り行きを知らされた。
緑川はズザンナの肌を初めて目にした。学校の水着でなく、赤いビキニだった。緑川が目を離せずに見つめているとズザンナは赤くなって、
「おじさん!」
と叫んだ。ビキニは母親が、プールに行くなら日に焼けてきなさいと買って与えたものだそうだ。レナータも青い同じような水着を着ていた。裸のレナータより何だか大人びて見えた。
二人とも綺麗だなあと緑川は本心からつぶやいた。その言葉の泣きそうな響きが二人の少女に届き、二人は少し深刻そうに顔を見合わせた。それからいきなり緑川はプールに突き落とされた。青く冷たい水の中で、体とともに心の軽くなるのを感じた緑川のすぐあとから二人は飛び込んできた。そして二人とも緑川に抱きついてきてくすぐった。ズザンナも、水の中では子供っぽくなるらしかった。
三時間ほども遊んで遊んで、三人は帰途に着いた。ズザンナもレナータも、バスの中では緑川に頭をもたせかけ眠っていた。女の子の濡れた髪が緑川に冷たく心地よかった。
バスから降りても、疲れている二人の少女は子供らしくむっつり黙っていた。アパートの前で別れを告げるとき、ズザンナは、おじさん、あしたもまた行きましょうねと言った。顔は大変ねむそうだった。レナータは、お酒を飲みすぎないでねと言って、緑川の手提げに手を入れた。今日は体を動かしたから飲んでもいいんじゃないかと緑川は言い、またあしたと三人は別れた。
水着を干そうとした緑川は、手提げにレナータの、今は正しくは麗那の下着を見つけた。心のありように注意しつつ、まず緑川は長い読経をした。それから緑川は風呂に入り、麗那のものを嗅ぎながら、ビールを心ゆくまで飲んだ。どうせあしたも休みである。緑川はしばらく自分で運命の船を漕ぐのをやめて、世界に任せることに決めた。
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