生命の木
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いて床につき、レナータをよく殴った。お前なんか欲しくなかったと言われたこともあった。それでレナータは、本当の母親はよそにいるのではないかと夢見るようになっていた。理想の家族を空想して眠るのが習慣になった。緑川に対して粗相ばかりしてきたと思っているレナータに緑川は一度も怒ったことがない。それは実際には緑川に責のあることなのだったが、とにかくレナータにとって新鮮だった。
先日、緑川がくれた本はヤーコブレフの文庫だった。本など自分から読んだことがレナータはなかった。読んでみると、時の経つのも日々のことも忘れる体験だった。それ以来、レナータは図書室へ通うことを覚えた。この人といればまたいいことがあると信じてレナータは疑わなかった。
よく晴れていた空が曇り、暗くなってきた。そのうちに雨音が聞こえ始めた。レナータは緑川の胸に酔った体を横たえた。
交代に目を覚ました緑川はうつろな頭でトイレに行ったあと、習慣的にレナータの中に入り込んだ。一週間の悩みをそこに捨ててしまってから、緑川も再び眠りに落ちていった。
夕方だった。呼び鈴が鳴り、ズザンナですという声が聞こえた。緑川はすぐ起き上がりドアを開けた。
入ったズザンナははっと息を飲んで後ろを向き、中に立ったままドアを閉めた。おじさん、なにか穿いてくださいと小声で言われて、緑川はまたやったかと気がついた。奥には裸のレナータが寝ている。緑川はジャージを穿くと水をごくごくと飲んだ。そして、どうにでもなれと腹を決め、ズザンナを中に入れた。
「これが僕の今の暮らしだよ。」
と緑川は裸のレナータを抱き寄せて卓袱台のもとに座った。ズザンナも座った。ズザンナは半袖に、やはりいつものふわりとした長いスカートを穿いていた。どちらも色は白だった。珍しく水色のベルトをしていた。緑川の部屋を見回したズザンナは、また掃除に来ようと思った。
緑川に抱かれ、汗をかいて眠っている少女から、いつかの部屋のにおいをズザンナは思い出した。自分ととしも体つきもそんなに違わないこと、外国人の親がいることにズザンナは親しみを覚えた。しかし、緑川がその子の裸を撫でていることが恥ずかしく、何となく視線をそらしてしまうのだった。
「おじさんはこの子のためにお祈りする?」
とズザンナに聞かれ、緑川は愕然とする思いだった。近頃は読経もまれだった上に、こんなに会っていながら、レナータとその母親のためには祈る気持ちすら欠けていた。あまつさえ、訴訟しようとはどういう了見であろう。緑川は自分を恥じた。ところで何の用だったのかと尋ねる緑川にズザンナは、ただ会いたかったのと答えた。
話し声を聞いてレナータが目を覚ました。ズザンナを見るといぶかしそうな顔をし、緑川にくっついた。体を隠そうとはしなかった。だが、緑川に言われ、レナータは緑川の大きなティーシャツ
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